最新記事

ブレグジット

イギリス、合意なきEU離脱リスク、今なお消えない理由

2019年12月2日(月)10時30分

時間不足

しかしあるEUの上級外交官は、来年末までに英国とEUが将来の関係について合意に達すると想定できるのは、あくまでジョンソン氏が抱く「見果てぬ夢」の中だけの話だ、と冷ややかな口調で切り捨てた。

シンクタンクのインスティテュート・フォー・ガバメントのジョー・オーエン氏は、来年末という期限は非現実的で、それは従来の自由貿易協定を巡る交渉というものが何度も中断を挟みながら、数年を要するからであるのは言うまでもないと説明した。

もっとも複数のEU高官が「必要最小限」とみなすような自由貿易協定の締結を目指そうとしても、英国とEUは、労働市場や環境、国家補助などの基準に関する公平な競争確保という問題で意見の食い違いが表面化することになる。EUは、域内市場を英国によるダンピング(不当廉売)などの反競争的行為から守るため、この分野では自らの立場を主張し続けるだろう。

オーエン氏は「ジョンソン氏が来年末までにEUとの将来の関係を巡る交渉をまとめるチャンスを得たいと望むなら、いくつかの大きな譲歩が必要になる。関税や輸出入枠のない貿易協定の代償として、EUのルールに従い、EU司法裁判所の役割を引き続き尊重しなければならない可能性が大きい」と述べた。

批准および拒否権に絡むリスク

英政府とEUが何とか来年末までに将来の関係で合意に達しても、クリアしなければならない手続き上の多くのハードルが出てくる。

この合意は欧州理事会の承認とともに、欧州議会や各国の議会、ベルギーの3つの地域議会のような地方議会の批准が不可欠で、これらの議会が拒否権を発動してもおかしくない。

オーエン氏は手続きには何年もかかる可能性があり、それが英国とEUの協議に影を落とすと予想。「せっかくの合意も、来年末までに関係各方面が受け入れ、批准しなければ、英国は新たに合意なき離脱の淵に立たされる」と語り、そこでアイルランド国境や市民権などの一部問題を除くあらゆる離脱協定の枠組みが消し飛んでしまうと警告した。

移行期間延長を迫られるジョンソン氏

英国がEUと将来の関係の話し合いを始めてから、合意なき離脱の淵を回避するためにジョンソン氏に与えられた時間は多くない。もし同氏が移行期間を1年ないし2年延長したいと考える場合は、来年6月末までに申請が必要だ。

ラター氏は「移行期間延長なしの場合は、合意なき離脱になるか、それにかなり近い形の極めて狭い範囲の合意しか結べないリスクを伴う。現時点でジョンソン政権はそこに向かっているように見受けられる」と懸念している。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ワールド

米中外相が対面で初会談、「建設的」とルビオ氏 解決

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中