最新記事

中国

中国・遺伝子操作ベビーの誕生から1年、博士は行方不明、双子の健康状態も不明

2019年12月2日(月)17時15分
松岡由希子

あれから1年、賀博士は行方不明...... The He Lab-YouTube

<「遺伝子操作ベビーの誕生」が中国内外からただちに厳しい批判を浴びてから1年になる。しかし、謎は残されたままだ......>

中国の賀建奎(ホー・チエンコイ)博士が、2018年11月25日、動画共有サービス「ユーチューブ」で「ゲノム編集技術『CRISPR-Cas9』で遺伝子を改変した受精卵から双子の女児を誕生させた」と公表し、中国内外からただちに厳しい批判を浴びてから1年になる。しかし、「遺伝子操作ベビーの誕生」をとりまく謎は残されたままだ。

世界各国が非難し、中国政府も追随したが......

2018年11月29日には、米国、英国、日本など、8カ国14名の研究者によって、賀博士の研究や実験を非難する共同声明が出されている。

AP通信によると、中国政府は、11月29日、賀博士の研究活動の中止を命じた。中国科学技術部の徐南平副部長は、中国の国営放送「中国中央電視台(CCTV)」で「科学技術部は、遺伝子改変した受精卵から双子の女児を誕生させたことに強く反対する」との見解を示し、一連の研究活動は違法であり、容認できず、調査を命じたことを明らかにしている。さらに、国家衛生健康委員会では、2019年1月21日、「賀博士がヒトの胎児の遺伝子を改変したことは、関連規則に明らかに反する」との予備調査結果を発表した。

●参考記事
「遺伝子編集した双子の誕生に中国政府が援助していた」との報道

賀博士は軟禁状態? 双子の健康状態も不明

賀博士は2019年1月以来、姿を見せず、研究結果もまだ正式に学術雑誌で発表されていない。誕生した双子の健康状態も不明だ。

賀博士は、2019年の1月初旬、深圳市の南方科技大学のベランダで目撃されて以来、姿を見せていない。武装した警備員が構内に配置されていたため、自宅で軟禁状態にあるのではないかとみられている。南方科技大学は、賀博士が研究結果を公表した後、賀博士の職を解いている。

AP通信では、賀博士との接触を試みてきたものの、失敗に終わっている。賀博士の広報担当者であるライアン・ファレル氏はコメントを拒否しているが、以前「賀博士の妻から報酬を受け取っている」と語っており、賀博士は自らで報酬を支払うことができない状況に置かれている可能性がある。

中国政府は、賀博士が誕生させた双子の女児の存在を確認しているとみられ、遺伝子が改変された残りの受精卵や賀博士の実験記録もすでに掴んでいる。また、双子の女児と、遺伝子改変した受精卵により妊娠した2人目の女性は、中国政府の監視下にあるという。2019年の晩夏に誕生するとみられていた「3人目の赤ん坊」については、何ら明らかにされていない。

WHOは同様の研究や実験を一切許可しないよう求める

賀博士が「遺伝子操作ベビーの誕生」を公表して以来、このような研究や実験に対する規制や一時停止を求める声が相次いでいる。発表直後の2018年11月27日、中国の研究者グループが中国政府に規制の強化を求める共同声明を出しているほか、世界保健機構(WHO)は、2019年7月26日、各国政府に対し、同様の研究や実験を一切許可しないよう求める声明を発表した。

「CRISPR-Cas9」の第一人者でもある米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授は、学術雑誌「サイエンス」の寄稿記事において「もはや研究や実験の一時停止では十分でなく、規制を定める必要がある」と説いている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中