最新記事

中国

「遺伝子編集した双子の誕生に中国政府が援助していた」との報道

2019年2月27日(水)17時15分
松岡由希子

賀博士の公表当時は、中国政府は関与していない、とされたが...... REUTERS/Stringer

<2018年11月、遺伝子編集した双子の誕生させた中国の賀博士は、当時中国国内からも批判を浴びたが、3つの政府機関が賀博士の研究に資金を提供していた可能性が報じられている>

中国の南方科技大学に所属する賀建奎博士は、2018年11月、「ゲノム編集技術で遺伝子を改変した受精卵から双子の女児を誕生させた」と公表し、中国内外から厳しい批判を浴びた。公表当時、南方科技大学は「賀博士の研究は学外で行われ、大学側への報告もなかった。大学も学部もこの研究について承知していない」と主張。

また、国家衛生健康委員会(NHC)から調査を命じられた広東省は、2019年1月21日、「賀博士が自己資金でヒトの胎児の遺伝子を改変したことは、関連規則が明らかに禁じているものであり、中国の倫理規範や研究公正、関連規則に反している」との予備調査結果を明らかにしている。

3つの政府機関が賀博士の研究に資金を提供していた可能性

アメリカのニュースサイト「STAT」は、2019年2月25日、「中国科学技術部を含む3つの政府機関が賀博士の研究に資金を提供していた可能性がある」と報じた。賀博士の研究チームが中国語でまとめた14枚のプレゼンテーションスライドや患者向け同意説明書、中国の臨床実験登録を精査したところ、この研究への資金提供者として、中国科学技術部、深圳市科技創新委員会、南方科技大学が明記されていた。

STATの取材に対し、中国科学技術部は「予備調査によれば、我々は賀博士の研究活動に資金提供していない」と2月24日にメールで回答したが、深圳市科技創新委員会や賀博士からの回答はなかった。

「中国政府のサポートなく、この研究を推進できたとは思えない」

ニュージーランドのオタゴ大学の聶精保教授は、STATの取材で「賀博士が中国政府のサポートなく、この研究を推進できたとは思えない」と指摘する。その一方で、これらの関連書類が正しいならば、倫理に著しく反するとして世界的に批判されている賀博士の研究を中国が援助していたこととなり、「賀博士が自己資金で研究を行った」とする広東省の予備調査結果とも矛盾する。

また、臨床実験登録や賀博士が学術雑誌に提出した研究論文によると、中国の5カ所の不妊治療専門クリニックが賀博士の研究に関与していたこともわかっている。

華中科技大学の雷瑞鹏博士は「賀博士が単独で行動したとは思えない」と述べ、「一連の調査で制度上の問題が明らかになることを望んでいる。そうでなければ同様の不祥事が今後も起こりかねない」との懸念を示している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英韓FTA更新へ、サービス分野や市場アクセスで改善

ワールド

米当局が爆弾攻撃阻止、加州で年末に複数標的に計画 

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、米株安と円高で ソフトバ

ワールド

エアバス、12月納入低調 年間目標まで100機超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中