最新記事

香港デモ

隠れ家に逃走手段など 香港デモの若者たちを支える市民の輪

2019年11月29日(金)11時02分

逃走を助けるドライバーたち

27歳のチュンさんは、繰り返し抗議の現場となっている九龍半島の繁華街・尖沙咀のユースホステルで働いている。

勤務先のオーナーからは、抗議参加者は無料で泊める、警察による摘発を避けるため、ヘルメットやマスク、楯といった抗議ツールを保管してやる、といった指示があったとチュンさんは言う。

「香港市民は利己的だと思っていた」とチュンさんは言う。「でも今は、私たちは公共の利益に基づいて動いていると思える。私やあなたのためではなく、皆のためだ」

抗議の現場から参加者を安全に帰宅させることを目的とするオンラインのチャット・グループは多い。さまざまな社会階層のドライバーが、スマートな高級車であれ薄汚れたセダンであれ、抗議参加者を乗せて走っている。

そうしたグループの1つ、企業のウーバーとは何の関係もないのに「ウーバー・アンビュランス(救急車)」と名乗るグループは、登録メンバー3万2000人以上を数え、出動要請のときには隠語を使っている。抗議参加者は通常「生徒」、抗議活動は「学校」、使われる車は「スクールバス」、ドライバーは「父兄」、抗議ツールは「文房具」といった具合だ。

たとえば、「放課後、生徒を迎えに来られる父兄はいませんか」などと投稿する。

エリックさん(34歳)は、日中はお抱え運転手として働き、勤務時間後は抗議参加者を乗せているという。抗議の最前線に立つのは怖いが支援したい、とロイターに語った。

エリックさんがある晩、中心街での抗議を終えたティーン世代の少年たち3人を乗せて新界地区に向かったところ、彼らは夢中になって女の子の話を始めたという。

だが、気軽なおしゃべりは突然終わった。仲間の何人かが逮捕されたというメッセージが入ったからだ。

「彼らは抗議現場から脱出しようとしており、警察に追われていた。それでも、女の子たちについて話す余裕はあった」とエリックさんは言う。「何と言っても、彼らはまだ10代なのだ」。

「正直なところ、今後がどうなるか、とても不安だ。だが1つだけ確かなのは、抗議が行われるたびに私が車を走らせるということだ」。

(翻訳:エァクレーレン)

[Sarah Wu

[香港 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUに8月から関税30%、トランプ氏表明 欧州委「

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 6
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 7
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 7
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中