最新記事

歴史

英仏の因縁を描いた1枚のタペストリーが初めてイギリスへ

Bayeux Tapestry: Centuries-Old Mystery

2019年11月14日(木)19時20分
アリストス・ジョージャウ

ノルマン人のイングランド征服を描いたタペストリーが史上初めてフランスからイギリスへ貸与される HULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES

<11世紀にさかのぼる「因縁」の品、英仏海峡を渡る「バイユーのタペストリー」に新事実>

英仏の歴史を象徴する1枚のタペストリー(刺繍織物)。「バイユーのタペストリー」と呼ばれ、長さ約70メートル、幅約50センチの麻布に11世紀のノルマン人によるイングランド征服の物語が描かれている。

どこで、誰の指示で作られたのか。最初に飾られたのはイギリスか、それともノルマン人ゆかりのフランスか......。タペストリーの歴史をめぐる長年の謎が、遂に解明された。

英ヨーク大学のクリストファー・ノートン教授(美術史)らが10月23日付で英考古学専門誌(電子版)に発表した最新の研究によれば、タペストリーはフランス北西部ノルマンディー地方にあるバイユー大聖堂用に制作された可能性があるという。

「バイユー大聖堂に合わせてデザインされたと考えるのが以前から最もシンプルだった」とノートンは言う。「タペストリーの物理的構造も物語の構成も、11世紀の大聖堂中央の会衆席の周囲を飾るのにぴったりだと分かった」

「1476年にはバイユー大聖堂に飾られていたことが分かっていたが、常時かどうかは不明だった」と、論文を掲載したトム・ニックソン編集長は言う。「最初からバイユー用に作られたのでは、と多くの研究者が考えていたが、証明できずにいた」

ノートンはタペストリーの布地と大聖堂の現存する建築的特徴を分析。「標準的な長さの麻布に刺繍したものだと証明し、元の長さを推定した。その結果、1066年から約10年後の大聖堂の会衆席にぴったりだった」という。

研究チームによれば、今回の発見は制作者特定のカギになるという。デザインした人物はバイユーを訪れたことがあり、会衆席の正確な寸法を知っていたに違いないからだ。

ヒムラーも目を付けた

折しもフランスではタペストリーをイギリスに貸し出す準備の真っ最中。貸与はエマニュエル・マクロン仏大統領が昨年約束したもので、イギリスでの展示は史上初。英仏にとっての歴史的重要性とブレグジット(イギリスのEU離脱)が迫る現状を思えば、絶妙のタイミングだ。

「フランスからイギリスへの、恐らく過去最大規模の貸与になる」と、大英博物館のハートウィグ・フィッシャー館長は当時語った。「異例の大盤振る舞いで、両国の深いつながりの証しだ。バイユーのタペストリーは1066年という英仏の歴史的瞬間を象徴する非常に重要な品だから」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中