イラン政権転覆を狙う反体制派が抱える闇

Bracing for the Fall

2019年10月25日(金)19時00分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)

magw191025_Iran3.jpg

テヘランで拘束されたMEKの支持者(1982年) KAVEH KAZEMI-HULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES

MEKは当初、イラン革命の最高指導者で、1979年に王政を倒したホメイニ師を支持していた。同年11月に首都テヘランで発生した米大使館占拠事件にも協力したが、ホメイニが人質を解放したことに反発して決別した。

1981年に蜂起したが失敗。指導者のマスード・ラジャビと妻のマリアムはパリに逃亡した。

一方で、1980年に始まったイラン・イラク戦争は、MEKが反体制派として再び台頭する機会をもたらした。彼らはイラクのサダム・フセイン大統領と手を組み、メンバー7000人をイラクに送り込んで軍事訓練を受けさせた。

MEKはイラクを拠点に、各地でイランの軍勢と戦闘を繰り広げた。1988年には政権転覆を目指してイランに軍事侵攻を試みたが、大敗を喫して3000人以上の兵士を失った。さらに、イランで拘束されていたMEKの政治犯数千人が処刑された。

フセイン政権に協力したことで、MEKはイラン国民の大半から裏切り者と見なされるようになった。1990年代に入ると、ラジャビ夫妻はメンバーの離脱を防ぐためにカルト集団的な手法を取った。

国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが離脱者からの聞き取り調査をまとめて2005年に発表したリポートによると、メンバーは離婚して子供を国外に養子に出すよう強いられた。家族に対する義務感が、戦いに集中する妨げになるとされたのだ。

2003年にフセインを倒してイラクを占領した米軍は、MEKを武装解除、イラクに残っていた3400人のメンバーを保護下に置いた。その年を最後にマスード・ラジャビの消息は途絶え、以後はマリアムがパリを拠点に組織を率いている。

米タカ派を取り込む狙い

マリアムは米政府によるテロ組織の指定解除を目指し、2009年から数百万ドル規模の活動を展開した。指定を解除される前からMEKはワシントンで堂々と動き回り、対イラン強硬派に歓迎された。

ワシントンで派手なレセプションを開催し、著名な政治家や軍関係者に最大5万ドルの講演料を弾んでは、MEKが世俗的で民主的なイランを目指しているという主張を代弁させた。

彼らの講演者リストには、ボルトンやジュリアーニのほかにも、ブッシュ政権やオバマ政権の大統領首席補佐官(国家安全保障問題担当)や元司法長官、FBIとCIAの元長官、元統合参謀本部議長など、堂々たる肩書の持ち主が並んでいる。

「純粋にカネのためという人もいれば、イスラム共和国(イラン)が大嫌いだからという人もいる」と、安全保障問題を扱うシンクタンク、アトランティック・カウンシルのバーバラ・スラビンは言う。「敵の敵は味方というわけだ。何よりも(MEKは)カネを弾んでくれる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪経済見通し、現時点でバランス取れている=中銀総裁

ワールド

原油先物横ばい、前日の上昇維持 ロシア製油所攻撃受

ワールド

クックFRB理事の解任認めず、米控訴裁が地裁判断支

ワールド

スウェーデン防衛費、対GDP比2.8%に拡大へ 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中