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ラグビーW杯

日本が強くなったのはラグビーがグローバル化したからだ

JAPAN’S GREAT LEAP FORWARD

2019年10月22日(火)12時20分
長岡義博(本誌編集長)

ラグビー国力を裏付ける数字

選手とコーチ個人の努力は日本代表躍進の十分条件だ。ならば必要条件は何か。それはグローバリズムである。

アマチュアリズムを掲げ、プレーの代償として金銭を受け取ることを(少なくとも建前上は)拒否していた世界の15人制ラグビーは、第3回ワールドカップが開かれていた1995年6月、プロ化に向けてうねり始める。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの3つのラグビー協会を巻き込みプロ化の音頭を取ったのは、札束を手にしたオーストラリア出身のメディア王ルパート・マードックだ。

3協会の代表チームによる選手権「トライネーションズ」と、3協会に所属する12の地域チームが国を超えてぶつかる「スーパー12(現在のスーパーラグビーの前身)」が設立され、マードックがその独占放送権として10年間で5億5500万ドルを支払う──。マネーの力が一気に解放されると、選手、そしてラグビーは変わった。

それまでは本業が「肉屋」「警察官」だった世界のトップ選手はフルタイムのプロ契約が当たり前になり、そのプレーはより高速に、肉体はより巨大になった。そして、ハイレベルなプレーとマネーを求めて選手は世界のチームを渡り歩くようになる。

本格的なプロ化へのためらいを見せていた日本ラグビーが「トップリーグ」をようやくスタートしたのが2003年。かつての「社会人チーム」にジャパンマネーを求めてどんどん外国人選手が流入するようになり、味方あるいは相手に世界のトップ級選手がいるのは日本人選手にとって当たり前になった。

2015年大会で日本に敗れた南アフリカ代表選手のうち、当時日本のトップリーグで3人がプレーしていた。敵あるいは同僚としてプレーすることで、日本選手の間に南アフリカ選手を不要に神格化する意識は消えていたはずだ。

マネーは統括団体のワールドラグビーが新たな市場を求める原動力にもなっている。そのターゲットになっているのがアジア、そして北米大陸だ。第9回ワールドカップが日本で開かれることが2009年に決まったのも、ワールドラグビーの世界戦略と無縁ではない。そしてワールドカップが日本で開かれることが決まったからこそ、大会成功の十分条件である日本代表の強化は本格化し、カネと人材が集中的に投じられるようになった。

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