最新記事

年金

知っておきたい公的年金の将来見通し──保険料の引上げ停止がもたらす未来

2019年10月18日(金)19時00分
中嶋 邦夫(ニッセイ基礎研究所)

誰かの負担増なくして給付水準の改善はできない Hana-Photo/iStock.

<将来年金を受け取る日本人にとって死活的に重要な「マクロ経済スライド」と、年金の厳しい明日がよくわかる>

公的年金の財政検証(将来見通し)が5年ぶりに公表された。本稿では、今回の見通しのポイントを確認する。

重要な前提:保険料の引上げ停止

公的年金の将来見通しでは、給付水準の見通しが示される。これまでもそして今回も、将来の給付水準が低下する見通しになっている。このように給付水準が低下するのは、2017年に公的年金の保険料(率)の引上げが停止されたためである。

保険料(率)の引上げ停止は、2004年改正で決まった。当時の試算では、当時の給付水準を維持するには厚生年金の保険料率を将来的に労使合計で25.9%まで引き上げる必要がある、という結果であった[図表1]。しかし、労使ともに保険料の引上げに反対したため、保険料率の引上げを18.3%で停止し、その代わりに将来の給付水準を段階的に引き下げて、年金財政のバランスを取ることになった。これが「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みである。

給付水準の引下げは年金財政が健全化するまで続くが、いつ年金財政が健全化するかは、今後の人口や経済の見通しによって変わる。そこで、国勢調査が5年ごとに行われることを踏まえて、政府は少なくとも5年ごとに年金財政の見通しを作成する(財政検証を行う)ことになっている。

nissei191016_1.jpg

注目点1:給付水準の低下率

前述のとおり、現在の制度では将来の給付水準を段階的に引き下げて年金財政のバランスを取る。そのため、給付水準がどの程度で下げ止まるかが、将来見通しの第1の注目点である。

ただ、給付水準は、法律で定められたモデル世帯の所得代替率で示されるため、値自体の解釈が難しい。そこで注目すべきなのは、所得代替率が足下と比べて何割低下しているか(割り算で求めた低下率)である。

今回(2019年)の財政検証では、足下(2019年度)の所得代替率が61.7%だったのに対し、今後の人口や経済状況によって、最終的に53.8~31.1%へと低下する見通しが示された[図表2左]*。これは、足下の水準と比べて、給付水準が1~5割程度低下することを意味する[図表2右]。

nissei191016_2.jpg

もう一歩踏み込んで見ると、給付水準の低下は厚生年金(2階部分)よりも基礎年金(1階部分)で大きくなっている[図表3]。これは、年金に占める基礎年金の割合が大きい人、すなわち会社員OBの中でも現役時代の給与が少ない人ほど、年金全体の水準低下が大きいことを意味する[図表4]。

nissei191016_3.jpg

nissei191016_4.jpg

――――――――――
* 死亡率が中位の場合。死亡率が低位や高位の場合は、出生率が低位や高位の場合より影響が小さいため割愛。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イラン核施設攻撃の週末に国民のイスラエル出国を

ビジネス

ペルシャ湾の海上保険リスクプレミアムが1週間で2倍

ワールド

イスラエルとイラン、完全かつ全面的な停戦で合意=ト

ビジネス

日産きょう株主総会、ファンドが「親子上場」問題視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中