最新記事

経済

正しいキャッシュレスの使い方、教えます

CASHLESS SOCIETY

2019年10月10日(木)12時55分
坂井豊貴(慶應義塾大学経済学部教授、〔株〕デューデリ&ディール チーフエコノミスト)

1008p36no2.jpg

楽天ペイなど支払い手段は乱立。IT化とともにキャッシュレス化が進むのは必然的な流れだ ISSEI KATOーREUTERS

電子支払いがプライバシーを損ね得ることは、既に1980年代には指摘されている。なかでも暗号学者のデービッド・チャウムはその懸念から、プライバシーを守れる送金の仕組みを考案した。さらにチャウムは自身のアイデアをeキャッシュという送金システムで実装し、世にリリースした。

ただし、このサービスは商業的にはうまくいかなかった。クレジットカードに負けたというのもあるが、あまりに時代の先を行き過ぎていた。

私がよく使うモバイルSuicaは、お金の流れとしては複雑だ。まず私はモバイルSuicaに、VISAカードでお金をチャージする。このお金は後日、VISAカードが私の銀行口座から引き落とす。私はモバイルSuicaにチャージしたお金を使って、店舗に支払いの手続きをする。こうするとモバイル会社は、その店舗の銀行口座にお金を送金する。

現金の物理的な受け渡しだと、私と店舗の間には誰も入らない。しかし電子的なお金だと、かくも多くの「第三者」が入ってしまう。それら全ての第三者が適正に働いてくれることを、ユーザーは信頼せねばならない。

現金のように、第三者が入らないやりとりをP2P(ピア・トゥ・ピア)という。P2Pだと銀行やカード会社のような第三者を信頼する必要がなく、これをトラストレス(信頼不要)だという。

ビットコインへの誤解

それではP2Pで電子的にお金をやりとりできないものか。それを可能にするのがビットコインだ。ビットコインは物理的な形態を持っていない。銀行やカード会社のような第三者はいないし、ペイ企業のように個人情報を収集する機関もない。つまり第三者に手数料や金利を取られたり、情報を抜かれたりしないわけだ。

ビットコインには中央の管理主体がなく、ネットワーク上で不特定多数の人々により分散管理されている。そのブロックチェーンと呼ばれる仕組みは実に堅牢で、ビットコインは2009年に登場して以来、一度も停止したことも、改ざんされたこともない。日本のメガバンクの中には、連休のたびにシステム改修のためATMが止まるものがある。だがビットコインは休日も時間も関係なく、24時間使用できる。

いまだにビットコインに怪しいイメージを持つ人は、既存の法定通貨や銀行を信頼(トラスト)し過ぎであり、こうした利点を真面目に考えたことがないのではなかろうか。なお現在ビットコインの時価総額はおよそ16兆円で、これは銀の時価総額のおよそ5分の1である。登場からわずか10年ほどで、既に人類有数の資産クラスに成長しているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏やエジプトなどの仲介国、ガザ停戦に関する

ワールド

トランプ氏、ゼレンスキー氏と17日会談 トマホーク

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦でエジプトの役割を称賛 和平実

ワールド

トランプ氏、イランと取引に応じる用意 「テロ放棄が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中