最新記事

感染症

アフリカ豚コレラ、東南アジアで猛威 米穀物輸出にも打撃

2019年10月4日(金)09時24分

中国との貿易戦争にあえぐ米国産穀物の輸出業者にとって、昨年は東南アジアの畜産農家による飼料用の購入が命綱となった。写真は9月20日、ベトナムのハノイ近郊の養豚農家で撮影(2019年 ロイターS/Kham)

中国との貿易戦争にあえぐ米国産穀物の輸出業者にとって、昨年は東南アジアの畜産農家による飼料用の購入が命綱となった。ところが今、アフリカ豚コレラが東南アジアを襲い、米国産穀物を飼料として育つ豚だけでなく、米国からの穀物輸出にも致命的な影響が及ぶ恐れが出ている。

ベトナム、ミャンマー、フィリピンなどの国々に対する米国産穀物の輸出は昨年50%近くも増え、過去最大の1230万トンとなった。中国向け輸出が4分の1程度に急減した打撃は、こうした動きによって緩和されている。

しかし、アフリカ豚コレラの影響で失われる東南アジア向け輸出は甚大な規模となりそうで、米中貿易協議が妥結しない限り、米国の畜産農家は在庫を抱えざるを得なくなりそうだ。

フィリピン豚肉生産連盟のエドウィン・チェン代表は「(フィリピンでは)豚の生産が落ち込み、他の国々同様に流通飼料の需要も落ち込むだろう」と話す。

フィリピンは世界第4位の大豆かす輸入国だが、アフリカ豚コレラの感染拡大以来、既に飼料用穀物の需要が鈍り始めている。

アフリカ豚コレラはヒトには感染しないが、豚を死に追いやる伝染病で、ワクチンも存在しない。世界動物保健機関によると、1年余り前にアジア初の事例として中国で確認されて以来、今では50カ国以上に広がった。この中には世界の豚肉生産の75%を占める国々が含まれている。

シェア獲得に尽力

東南アジアは過去5年間にトウモロコシと大豆の輸入が25%近く拡大し、両穀物の輸入市場として世界第3位の規模に発展した。このため、同地域での需要急減は輸出国にとってとりわけ警戒感を呼び覚ます。

市場の急拡大を背景に競争も激しくなり、輸出業者の団体はシェア獲得のため定期的に代表団を送り込んでいる。

そうした団体のひとつである米大豆輸出評議会(USSEC)は、中国向け輸出の減少分を少なくとも一部相殺するために「必要な手段を尽くす」戦略を打ち立て、東南アジア全体に米国産穀物を売り込んでいる。

USSECの北アジア地域ディレクター、ロザリンド・リーク氏は「USSECにとって市場多角化は、米中貿易の問題が起こる何年も前から最重要課題だ」と話す。

努力が実を結び、2018年には米国産穀物・大豆の東南アジア向け輸出は過去最大の伸び率となり、初めて中国向けを上回った。

感染拡大

苦心して確保したこの伸びが今、アフリカ豚コレラによって反転する恐れが出ている。豚の数が減れば飼料用穀物の輸入も減る。

商社筋2人によると、今年はベトナムだけでトウモロコシと大豆かすの購入が各々約100万トン減る見通しだ。

世界第6位の豚肉生産国であるベトナムは、アフリカ豚コレラの感染拡大を受けて既に約470万頭を殺処分した。2月に最初の感染が確認されて以来、7月末までに同国の豚は18.5%減って2220万頭となっている。

世界第5位の大豆かす輸入国であるタイは今月、アフリカ豚コレラが確認されたミャンマー国境に近い省で豚2頭が死に、原因の説明はないものの、感染拡大を恐れて殺処分を開始した。

業界専門家は「ベトナム、フィリピン、韓国へと感染は拡大している。米国の飼料用穀物農家とアジアの畜産農家にとって悪いニュースが続く」と語った。

(Naveen Thukral記者 Gavin Maguire記者)

[シンガポール ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます




20191008issue_cover200.jpg
※10月8日号(10月1日発売)は、「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集。消費税率アップで経済は悪化する? 年金減額で未来の暮らしはどうなる? 賃貸、分譲、戸建て......住宅に正解はある? 投資はそもそも万人がすべきもの? キャッシュレスはどう利用するのが正しい? 増税の今だからこそ知っておきたい経済知識を得られる特集です。



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中