最新記事

トランプ政権

ロシア疑惑とはまったく違う、ウクライナ疑惑の中心人物はトランプ本人

Much Worse than Before

2019年10月2日(水)18時40分
イライアス・グロル

magw191002_Trump2.jpg

ホワイトハウスが発表したトランプとウクライナ大統領との電話会談の記録 JIM BOURG-REUTERS

しかしバイデンが捜査を中止させた証拠はなく、その会社への捜査が政治的な動機で中止されたという証拠もない。その電話でトランプは、前日に行われたロバート・ムラー元特別検察官の議会証言にも触れている。ムラーはロシアとの共謀についても司法妨害についてもトランプを起訴する十分な証拠はなかったと証言していた。「見てのとおり、このナンセンスな芝居は終わりだ」。そう言った後で、トランプはゼレンスキーに念を押している。「全てはウクライナから始まったという説があるんだ」

もちろん、トランプ政権を支える共和党は、ゼレンスキーとの電話会談に権力乱用を示唆する文言はないと主張している。政敵を陥れる卑劣な行為と引き換えに、ウクライナへの支援を約束した証拠はないと。

しかしそうした弁明自体が、今回の疑惑でトランプが果たした役割が前回とは違うことの証拠ではないか。ロシアの選挙介入疑惑では、主役はあくまでもロシアだった。しかし今回の主役はトランプ自身だ。

特別検察官によるロシア疑惑の捜査では、争点は2つに絞られていた。まずはトランプ(またはトランプ陣営幹部)とロシア工作員との「共謀」の有無。そして2つ目は、特別検察官の捜査をやめさせるためにトランプ自身が「司法妨害」をしたかどうかだった。

1つ目については、ロシアによる選挙介入の十分な証拠は見つかったが、トランプ側が共謀した証拠は出なかった。2つ目については、司法妨害の十分な証拠はあったが起訴相当とは結論しなかった。またトランプ側は、そもそも疑惑の事実がないのだから捜査に介入する動機がないと主張できた。

しかし今回のウクライナ疑惑では、トランプが自身の政治的利益のためにアメリカの外交政策を利用した形跡がある。他人の違法な企てに共謀した疑いではなく、大統領自身が不正行為に手を染めた疑いがある。

周到に準備された作戦

2016年の米大統領選に対するロシアの介入疑惑では、特別検察官が本筋の捜査でたどり着けたのは、トランプ陣営でも下っ端の外交政策顧問ジョージ・パパドプロスまでだった。

当時の民主党大統領候補ヒラリー・クリントンの顔に泥を塗るような電子メール記録をロシア側が入手したという情報を、パパドプロスはロシア政府と関係のある人物から受け取っていた。しかしパパドプロスはトランプ陣営の幹部ではなかった。

最終的にはトランプの元選対本部長ポール・マナフォートと元大統領補佐官マイケル・フリンという陣営幹部2人が起訴されたが、ロシア側との「共謀」を立件するには至らなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長

ビジネス

メルセデス、2027年に米アラバマ工場で新車生産開

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中