最新記事

シリア

米・トルコ、シリア軍事作戦5日間停止で合意 クルド勢力に猶予

2019年10月18日(金)09時07分

ペンス米副大統領は17日、トルコがシリア北部で展開する軍事作戦を5日間停止することで合意したと発表した。写真はペンス副大統領(右)とトルコのエルドアン大統領(2019年 ロイター/HUSEYIN ALDEMIR)

ペンス米副大統領は17日、トルコがシリア北部で展開する軍事作戦を5日間停止することで合意したと発表した。トルコがシリア難民帰還に向けて同地域に設置を計画している「安全地帯」から、クルド人勢力が退避する猶予を与える。

ペンス副大統領はアンカラでエルドアン大統領と会談し、その後の記者会見で「米国とトルコがシリアにおける停戦で合意した」と発表。「120時間の間に、シリアのクルド人民兵組織『人民防衛部隊(YPG)』を安全地帯から退避させる」とし、退避が完了するまで全ての軍事作戦は停止されると説明した。

停戦合意の発表を受け、トランプ大統領はツイッターへの投稿で「素晴らしいニュース」と称賛。「エルドアン大統領に感謝する」とし、「数百万人の命を救うことになる」と述べた。

しかし、今回の合意が実行されれば、シリア国境から約30キロにわたる地帯を支配し、クルド人勢力を排除するという、今月9日に軍事作戦を開始した際に発表したトルコの主な目的がすべて達成されることになる。

トルコ当局者は、ロイターに対し、トルコは米国との協議で「まさに望んでいたもの」を手に入れたと指摘した。

ペンス副大統領によると、YPGを主体とする「シリア民主軍(SDF)」は安全地帯からの退避に合意し、すでに退避を始めているという。

だが、SDFが完全に合意を履行するかどうかは不透明だ。

SDFのコバニ司令官は、クルド系のロナヒテレビに対し、合意は「始まりにすぎない」とし、トルコの目的を達成するものではないと指摘。シリア北部でのトルコとの停戦合意を受け入れるものの、国境沿いのラスアルアインとテルアビヤドに挟まれた地帯に限定されると強調した。

ペンス副大統領は「停戦が実施されれば、米国はトルコに対する追加制裁を発動しない」としたほか、トルコが軍事作戦を終了した段階で、対トルコ経済制裁を解除すると言明した。

また、軍事作戦終了後に、シリア北部から米軍を完全撤退させる計画も進めると述べた。

米・トルコが発表した共同声明によると、安全地帯は主にトルコ軍が管理に当たる。トルコのチャブシオール外相は軍事作戦を停止するとし「テロリスト分子が安全地帯から完全に撤退した段階で、われわれは軍事作戦を終わらせる」と述べた。トルコ政府はYPGをテロ組織と見なしている。

米共和党のミット・ロムニー上院議員は、停戦合意について「勝利とは程遠い」と指摘。米政権に対し、クルド人勢力がどうなるかという点や、シリア北部での今後の米国の役割、トルコがなぜ行動の責任を追及されないのか、説明するよう求めた。

トルコによるシリア北部侵攻を防げなかったとしてトランプ政権を批判してきた米上院議員らは、停戦合意の発表にかかわらず、トルコへの制裁導入に向けた動きを強めている。

*内容を追加します。

[アンカラ 17日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます




20191022issue_cover200.jpg
※10月22日号(10月16日発売)は、「AI vs. 癌」特集。ゲノム解析+人工知能が「人類の天敵」である癌を克服する日は近い。プレシジョン・メディシン(精密医療)の導入は今、どこまで進んでいるか。



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中