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核戦争

印パ核戦争の推定死者1億2500万人、世界中が寒冷期に

A Nuclear War Between India and Pakistan Would Threaten the Entire World.

2019年10月3日(木)17時10分
ロージー・マコール

パキスタンの核弾頭搭載可能な空中発射型「ラード」巡航ミサイル(2008年3月の軍事パレードで) REUTERS/Mian Khursheed/Files (PAKISTAN)

<軍拡競争を続けるインドとパキスタン。隣国同士の局地戦でも影響は地球全体に及ぶのが広島や長崎の原爆とは違うところだ>

インドとパキスタンが核戦争を始めれば、直接的な影響による死者は最大で1億2500万人に上ると、サイエンス・アドバンシズ誌に掲載された新論文は結論づけた。第二次大戦では軍事行動の直接的な影響による死者数は5000万人と推定されており、この2.5倍に当たる死者が出ることになる。

ラトガーズ大学の研究チームは、核保有国同士で対立するインドとパキスタンが核戦争を始めた場合の直接的な被害を推計した。核爆発ですぐに命を落とす人は1億万人超と推定されるのに加え、世界的に植物の生育が20〜35%、海洋の生産性が5〜15%低下すると見られ、大規模な飢饉、生態系の破壊が起き、さらに多くの死者が出ると予想される。核の影響から完全に回復するには10年はかかると、チームは推測している。

「核保有国は9カ国だが、保有数を急速に増やしているのはパキスタンとインドだけだ」と、研究を率いたラトガーズ大学(カナダ・ニューブランズウィック校)環境科学部の特別教授アラン・ロボックは言う。

「核を持つこの2国間では、とりわけカシミール地方の帰属をめぐり、不穏な動きが続いている。この際、核戦争の影響を事前に予測する必要があると考えた」

ロボックの懸念は杞憂ではない。

パキスタンのイムラン・カーン首相は9月27 日、ニューヨークで開かれた国連総会で、インド政府が8月末にジャム・カシミール州の自治権を剥奪し、同州のイスラム教徒を封鎖状態に置いたことを強く非難し、対立が続けば、核戦争に発展する危険性があると警告した。

<参考記事>インドのカシミール「併合」は、民族浄化や核戦争にもつながりかねない暴挙

「核の冬」から飢餓へ

「たとえ通常兵器によるものであっても、印パ間で戦争が勃発すればあらゆることが起こり得る」と、カーンは各国代表に訴えた。

「隣国の7分の1の小国が選択を迫られたらどうなるか。降伏するか、自由のために死ぬまで戦うか。私は自分の胸に問うてみた。私の信仰はラー・イラーハ・イッラッラー(アッラーのほかに神はなし)、つまり神は1人しかいない。私たちは戦う。そして核保有国が最後まで戦えば、その影響は国境を越えて、はるか遠くまでおよぶ」

<参考記事>もし第3次世界大戦が起こったら

ロボックらは、インドとパキスタンの核兵器保有数が合計で400〜500発に達すると見られる2025年に核戦争が起きることを想定し、被害を推定した。核爆弾1発の威力はTNT換算で15キロトン(広島に投下された原爆「リトルボーイ」と同じ)から数百キロトンの間と仮定した。ちなみに、これまでに知られている最強の核爆弾は、旧ソ連製の「ツアーリ・ボンバ」で、その威力は50メガトン。ロボックらはそれよりはるかに破壊力が小さい爆弾を想定した。

インドが戦略核100発、パキスタンが150発を使用した場合、直後の死者は5000万人から1億2500万人に上る(爆弾のサイズにより死者数は異なる)。第二次大戦の死者数は5000万人だ。

核戦争後は、さらに多くの餓死者が出ることはほぼ確実だと、チームは予測する。核爆弾投下により広範囲で火災が起き、大気中に1600万から3500万トンの煤が放出される。煤は太陽熱を吸収し、大気を温めるため、上昇気流が発生して煤はさらに上昇し、太陽光を20〜35%遮る。その結果、地表の温度は約6.5〜16℃低くなり、最終氷期以降、人類が経験したことのない寒冷な気候になる。降雨量は世界全体で15〜30%減り、一部地域では極端な乾燥化が進む。

こうした変化により、世界全体で植物の生育は15〜30%、海洋の生産性は5〜15%低下すると、チームは結論づけた。

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