最新記事
日本社会

「国民であっても日本人ではない」という帰化人のアイデンティティーの葛藤

2019年9月12日(木)18時30分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学・大学院文学研究科教授、国際教育センター国際教育部門教授)

近年、日本の国籍を取得することに関心を示す外国人が増えているようで、法務省が公開している2018年までの累計データでは、55万9789人に達している(帰化が認められた者の約8割を常に占めているのが韓国・中国の人たちである)。数年前までには、帰化後の氏名は日本的氏名を採択しなくてはならないことや、世帯主が帰化申請をしなければ個人で帰化できない状況が長く続いていた。だが今では、日本的氏名の強制もなくなり、帰化行政の許可基準はグローバル化の波や少子高齢化問題の影響なのか、以前に比べて大分緩和されつつあるのも事実である。

しかし、国籍を取得することと、日本人になれることは別もののようだ。正確にいえば、国籍を取ったとしても、社会から日本人の1人として見られる、または認められることはまずない。もちろん法律的には、国籍を取得した時点で日本国民に与えられる全ての権利と義務を持つようになるが、最終的には、外国人扱いはなくならない。これは私が行った調査の一部であるが、「日本の国籍を取ったら日本人になれますか」と日本の18~21歳の若者400人に尋ねたところ、95%以上は「日本人ではない」と答えた。「外国人」と「日本人」の線引きが国籍でないとなると、何になるのだろうかと疑問を持ってしまう。回答では「外国人なのか、または日本人なのか」の判断基準は、外見と氏名だと答えた人が多かった。

2つの文化が錯綜する帰化人の悩み

一般の日本人からすれば、「エジプト人のアルモーメン」が「田中」または「上川」などの日本人名を名乗るのは何だか妙な話で、違和感のあることだという。そのためか、帰化後も通称で生活する帰化人たちが少なくない。しかし不思議なことに、なぜかスポーツ選手や有名人などの帰化の話となると、世論の見方は別になる。つまり、日本人として彼らを見るのだ。

相手が日本人か否かを判断する際の重要な基準として、私たち(こういう場合、自分を日本人に含めている)が依拠するものはたいてい外見なので、「ハーフ」とされる日本人は、完全な意味での日本人ではない。受け継いだ容姿が違い、日本人に特有の名前ではないからだ。

この考え方には完全な矛盾もある。日本的な名前と容姿を持つ外国人についてだ。例えば、人種的には日本人だが、外国で生まれ育ったアメリカ人やブラジル人はどうなるのか。しかも彼らの感情はもっと深く、日本を知らず、住んだこともない第3、第4世代の人でも心の底では自身を「アメリカ育ちの日系人」と認識している。

一方で、帰化人には帰化人特有の悩みがある。生まれた国と暮らしている国の2つの文化が錯綜する、アイデンティティーの葛藤である。自分のルーツを大切にしたいという思いと、特別な愛情を抱いている、帰化した国への帰属意識との間の葛藤。心理学者である岡本祐子氏は、「自分は家族の一員であるという感覚が、斉一性と連続性を持って自分自身の中に存在し、またそれが他の家族成員にも承認されているという認識」を家族アイデンティティーと定義している。これを帰化人で考えてみると、家族アイデンティティーが形成されていない、つまり日本を自分の家族と考えて暮らしているが、日本の社会からは家族とみなされない。「25年が過ぎた今も、いつになったら日本という大家族の一員として受け入れられるのだろうか?」と私は心の中で思うことがある。

しかし、予想に反して認められる場面もある。例えば、娘が宿題を解いている時に、日本語の言葉の意味や使い方を聞いてくれることや、自分が勤めている大学で日本人しか担当させない授業を任せてくれることがある。もちろん日本国籍であっても、本物の日本人ではないことを理由に、対象外とされることもある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー総選挙、第1回は国軍系USDPがリード 

ワールド

ウクライナ、年初から連日モスクワ攻撃とロ国防省 首

ビジネス

政治の天井破れた、相場も天井破りの高値を=大発会で

ワールド

ローマ教皇、ベネズエラの独立維持求める 人権と法の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 6
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中