最新記事

中国

建国70周年に影を落とす中国共産党の憂鬱

China’s Coming Crisis

2019年9月28日(土)13時30分
ミンシン・ペイ (米クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト)

これらの要因はことごとく、既に消滅するか、以前ほどの力を失っている。非効率な国有企業の民営化など、大胆な経済改革を実行すれば経済成長を持続できる可能性もあるが、これまで改革は掛け声倒れに終わってきた。国有企業が一党支配の基盤であることを考えると、本格的な改革が実行されることは考えにくい。

国内政治の変質も気掛かりな要素だ。習体制の中国共産党は、それまでうまく機能していた政治の在り方──現実主義、イデオロギーに関する柔軟性、集団指導体制──を捨ててしまった。最近は、イデオロギーの画一性、規律の徹底、恐怖に基づく強権支配といった要素が目立つ。

このような政治の下では、取り返しのつかない政策ミスが発生するリスクが高まる。もちろん、中国共産党がやすやすと権力を手放すわけがない。国民のナショナリズムをあおり、反対勢力に対しては締め付けを強めるだろう。

それでも、この戦略により共産党の一党支配体制が苦境を脱することはない。国民のナショナリズムを刺激すれば、一時的には共産党への支持が強まるかもしれないが、エネルギーはやがてしぼむ。人々の生活水準が向上し続けなければ、それはおそらく避けられない。

それに、権力維持のために脅しと暴力に依存する体制は、大きな代償を払わされる。経済活動が停滞するし、人々の抵抗が強まり、治安維持のためのコストが膨れ上がる。国際社会でも孤立する可能性が高い。10月1日の演説で習がこのような暗い見通しを語ることはないだろう。

しかし、いくら習が愛国的な言葉を並べ立てても、共産党の支配体制が毛時代以降で最も揺らいでいるという事実は変えられない。

From Project Syndicate

<本誌2019年10月1日号掲載>

20191001issue_cover200.jpg
※10月1日号(9月25日発売)は、「2020 サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

クウェート、暗号資産マイニング業者を摘発 電力危機

ワールド

米軍大将ポスト2割削減を指示、国防長官「戦略的即応

ビジネス

4月の世界食料価格は1%上昇 穀物や乳製品上昇 砂

ビジネス

米アップル、2年ぶり起債で45億ドル調達
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 3
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どちらが高い地位」?...比較動画が話題に
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    背を向け逃げる男性をホッキョクグマが猛追...北極圏…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 7
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中