最新記事

ロシア

ロシア爆発事故で医師たちは放射線のリスクを何も知らされなかった

Russian Doctors Ordered to 'Get to Work' and Treat Nuclear Blast Victims

2019年8月23日(金)14時00分
ブレンダン・コール

ロシア国防省が公表した原子力巡航ミサイル「ブレベストニク」の発射実験の画像 RUSSIAN MINISTRY OF DEFENSE

<政府職員は不安を訴える医師たちに、負傷者は全員除染されているから「仕事をしろ」と言い放った>

ロシア北部アルハンゲリスク州ニョノクサの海軍実験施設で8月8日、原子力推進式ミサイルの爆発事故が発生。独立系メディアの報道によると、負傷者の治療にあたった医師たちは、政府関係者から放射線被ばくの危険性について何も知らされなかったと証言した。

<参考記事>ロシアの軍施設爆発、極超音速巡航ミサイル関連の事故?

爆発が起きた実験は、ロシアで「ブレベストニク」、アメリカでは「スカイフォール」のコードネームで知られる原子力巡航ミサイルに関連するものだったと見られている。事故の状況や影響については、いまだに詳細が明かされていないが、この事故で少なくとも5人が死亡し、6人が負傷した。

負傷者は地元の病院に搬送されたが、医師たちは、放射線被ばくについての警告は受けなかったと語った。事故当日に負傷者の治療にあたった別の医療スタッフからも、同様の証言が出ている。

医療従事者は事故について口外しないよう誓約しているが、ある医師はロシア語ニュースサイト「メドゥーサ」に対して、負傷者に付き添ってきた政府関係者に、治療にあたってのリスクを説明するよう要請したことを語った。

「患者に付き添ってきた者たちは、『全員が除染済みだ』と回答した。『彼らの治療にあたることでお前たちが危険にさらされることはないから、仕事をしろ』と言われた」

<参考記事>トルコ初の原発は「メイドインロシア」 起工式にプーチンも参加

補償は「1時間160円」の時間外手当

「手術が始まった後に線量測定士が到着した。彼らはベータ線の線量を計測すると、おびえて手術室から走って出て行った。医師たちが『何が起こったのか』と測定士らに尋ねると、ベータ線の線量が計測可能な値を超えていたと打ち明けられた」

救急治療室にいたほかの患者たちも危険にさらされた、とこの医師は語っている。

「救急治療室を立ち入り禁止にしたのは、受け入れた患者3人が被ばくしていることに気づいた後だった。それまでは、彼らから文字どおりわずか数歩の距離のところに他の患者がいた。その中には10代の若者や妊娠中の女性もいた」

さらに医師は、事故の4日後の8月12日に、保健省の職員らが病院に来たことも語った。

「私たちが被ばくした可能性は高い。この責任は誰が取るのか、誰が決定を下したのか、補償はあるのかと尋ねた。すると保健相代理は、医師たちには1時間あたり100ルーブル(約160円)の時間外手当が出ると答えた」

「言い換えれば、保健省の職員らは医療スタッフの被ばくを否定しなかった。医療スタッフは被ばくした負傷者のそばで5~6時間を過ごし、彼らの手術も行った。その対価は500ルーブル(約800円)だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半でほぼ横ばい、日銀早期

ビジネス

中国万科の社債急落、政府支援巡り懸念再燃 上場債売

ワールド

台湾が国防費400億ドル増額へ、33年までに 防衛

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中