最新記事

野生動物

世界で最も有名なオオカミ「OR-7」を知っているか?

The Call of OR-7

2019年8月16日(金)16時53分
ウィンストン・ロス(ジャーナリスト)

190101or3.jpg

OR-7とその群れが縄張りとしているローグ川・シスキュー国立森林公園のナショナルクリーク滝 LOWELLGORDONーE+/GETTY IMAGES


15年に発信機の電池が切れるまでに、OR-7は2000キロを旅していた(今では8000キロを超えていると推定される)。その終わりなき遍歴の意味は今も分かっていない。

米議会は11年、共和党議員や牧場主からの苦情を受けて、アイダホ州、モンタナ州、ワシントン州東部とオレゴン州、ユタ州の一部地域で連邦法によるオオカミ保護を打ち切った。12年には米魚類・野生動植物局が五大湖西部地域とワイオミング州のオオカミを保護リストから外し、翌年には本土48州でオオカミ保護の打ち切りを提案した(アリゾナ州とニューメキシコ州のメキシコオオカミの一部は対象外)。

「今も連邦法でオオカミが保護されている州は42〜45ある」とワイスは言う。「だが一定の生息数が確認されているのは6州のみで、うち3州の生息数はごくわずか。カリフォルニア州で確認されている群れは1つだけだ」。これで法的な保護が廃止されたら、もはやオオカミが「生存に必要な個体数を回復することは不可能になるだろう」とワイスは訴える。

オレゴン州では09年時点で13頭の個体が確認されていたが、15年には州全域で12の群れが確認され、個体数は110頭(前年比36%増)に達した。すると同年11月、州当局はハイイロオオカミを州の絶滅危惧種リストから外してしまった。

現在オレゴン州にいるオオカミは推定124頭。保護活動家たちはこの数字について、絶滅の危険がないとするには到底不十分だと指摘する。「オオカミたちはかつての縄張りをようやく取り戻して繁殖し始めたところだ」とニーマイヤーは言う。

家畜を育てる牧場主にとって、捕食者のオオカミは恐ろしい存在だろう。しかし彼らの存在が環境にプラスの影響を及ぼすのも確かだ。例えばオオカミが殺したエルク(アメリカアカシカ)の死骸は、ハイイイログマやコヨーテ、ワシやカラス、カササギや何百種類もの虫たちの食料源になっている。

一般にオオカミが狩りの対象とするのはエルクとシカだが、その個体数は全米各地で爆発的に増えている。そのせいで、餌となる樹木や草地が消滅してしまった地域も少なくない。

だがオオカミによる捕食で個体数が減った地域では樹木がよみがえり、鳥たちに巣作りの場所を提供し、強い根で土壌の浸食を防いでいる。おかげでビーバーは川にダムを築くことができ、清流には魚が戻っている。

遠い昔にオオカミやピューマが絶滅した地域は対照的だ。東部諸州ではシカの数が増え過ぎて、車との衝突事故により年間約150人もの死者が出ている。保護活動家はオオカミの再導入でシカの群れが間引かれれば、事故の件数が減ると考えている。だが牧場主の多くは、そういうメリットを感じていない。彼らは州当局がオレゴン州にいるオオカミの実数を偽っていると確信している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中