最新記事

香港

住宅街でもデモ、白シャツ集団が警察と談笑、香港最後の正念場へ

Hong Kong’s Endgame

2019年7月29日(月)11時55分
陳婉容(ジャーナリスト)

元朗駅で襲撃事件を起こした後、たむろする白シャツ集団(7月22日) TYRONE SIU-REUTERS

<1本の法案に反対するデモ活動が香港政府そのものに対する抗議に拡大。エンドゲーム(終盤)は新たな局面に移った>

近代的な地下鉄駅の改札を、続々と突破していく白いTシャツ姿の男たち。手には傘ほどの長さの棒を持ち、目に付いた人たちに片っ端から襲い掛かる。コンコースに響く怒号と悲鳴。さらに男たちはホームに降り、到着した電車にも乗り込んで人々をメッタ打ちに──。

香港に逃げ込んだ犯罪容疑者の身柄を中国に引き渡すことを定めた「逃亡犯条例改正案」が、香港市民の猛烈な反発を招き、大規模なデモにつながったのは6月のこと。その結果、香港特別行政区の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、改正案の審議停止を発表し、事態は収束に向かうかに思われた。

だが、市民の抗議行動は終わらなかった。それどころか、この数週間で運動は一段と複雑さを増している。理由の1つは、林鄭が改正案は「死んだ」と言いつつ、完全な廃案にはしていないこと。つまり、まだ復活させる可能性があることだ。

もう1つの理由は、6月のデモ鎮圧に当たり、香港警察が平和的なデモ隊に向かって、ゴム弾や催涙弾を発射したり、丸腰の市民を数人の警官が取り囲み警棒でたたいたりするなど、行き過ぎた暴力を使ったことに対して不満が噴き出したことだ。

しかも警察の暴力は、エスカレートする一方に見える。7月14日には、香港で最大級のベッドタウンである沙田でデモ行進が行われた後、重武装した警察がショッピングモールに突入。デモに参加した人たちと衝突して流血沙汰になった。

7月21日夜に地下鉄・元朗駅で起きた白シャツ集団による襲撃事件は、こうした混乱に新たに複雑な側面を加えた。襲撃犯は香港の犯罪ネットワーク「三合会」のメンバーとされ、この日、別の場所でデモに参加した人たちが帰ってきたところをターゲットにしたようだ。

警察が駆け付けたのは、白シャツ集団が立ち去った後のこと。しかも事件後、香港警察高官が襲撃犯の1人らしき人物と談笑し、「何も心配することはない」と話している映像や、香港立法会(議会)の親中派議員・何君尭(ユニウス・ホー ※)が、白シャツ集団と握手をしていたという目撃情報が広まった。

その背景には、親中派政治家と警察の不審なつながりがある。林鄭は、6月のデモ鎮圧方法について独立調査委員会の設置を求める声に対して、「警察を裏切ることは決してない」と宣言。さらに、いつまでたっても収束しないデモと支持率の急落、そして自らの行政手腕を疑う声に焦った彼女は、警察にすがって香港政府の権威を立て直そうとしたらしい。

※何君尭の英語名を誤って記載していたので訂正しました(2019年7月29日19:30)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、クックFRB理事の辞任要求 住宅ローン

ビジネス

ソニー、米国でPS5を50ドル値上げ 関税がコスト

ワールド

イスラエル軍、ガザ市への軍事作戦「第一歩」を開始

ワールド

中国外相がアフガン訪問、鉱物資源探査や一帯一路参加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中