最新記事

イスラエル

ソーダストリームが、ユダヤ・パレスチナ共存の未来を切り開く

Business as Diplomacy

2019年7月24日(水)17時48分
クリスティナ・マザ

NW_SDS_022.jpg

ORINOCO-ART/ISTOCKPHOTO

株主より従業員の幸福を

従業員は、不健康なソーダから炭酸水へとブランドイメージを切り替えた結果だと言う。しかし、政治的メッセージを抜きにして最近の成功を語ることは不可能だ。

同社が西岸からの工場移転を最初に発表した時点で、パレスチナ人従業員は一時失職することになった。バーンバウムは政治的事情のため、雇い止めにせざるを得ないと彼らに謝罪する感傷的なビデオを公表。それを受けて労働許可の取得が可能になったと、観測筋は指摘する。

「政府に対する直接的なメッセージだった」と、イスラエルが専門の政治経済学者シール・ヘバーは本誌に語った。「イスラエル政府を動かす上で極めて効果的だったと思う」

バーンバウムによれば、ソーダストリームの経営ビジョンはイスラエルという国の運命と複雑に絡み合っている。ネゲブ砂漠への工場移転は、イスラエルの初代首相ダビド・ベングリオンが唱えた砂漠開発の夢の延長だという。

ソーダストリームとイスラエルは運命共同体だと、バーンバウムは本誌に語った。「ティクン・オラム(世界の修復)というユダヤ教の概念がある。世界をより良いものにするという意味だ。それが私たちの目的だ。ここでの仕事を通じてより良い社会をつくり、イスラエルをより良く、より強くしたい」

工場では、従業員を男女同数にすることを目指している。現在、工場で働くベドウィンの従業員700人前後のうち、およそ半数は女性だ。1カ月前には、最初のパレスチナ人女性が働き始めたという。

「パレスチナ人とユダヤ人は憎み合うように仕向けられている。(だが)それは誤りだと、私たちはここで証明できる。素晴らしいことだろう? これも一種のティクン・オラムだ」

バーンバウムは工場を歩き回りながら炭酸水製造器の製造工程を説明する。従業員に名前で呼び掛け、「ラマダン、おめでとう」とイスラム教の断食月を祝福する。

中には話をしながら涙目になる従業員もいる。「彼は私たちの仲間みたいだ」と、アルゼンチン出身のミルタというユダヤ人組立工は言った。

ソーダストリームは大半の工場労働者に最低賃金より20%ほど高い給与を支払い、交通費は会社負担。食事補助も出しているという。工場内に保育施設の開設準備も進めている。

従業員の幸福は株主価値よりも重要だと、バーンバウムは言う。「それが使命だ。株主価値は後から付いてくる」

昨年12月、総額30億ドル以上で同社を米飲料大手ペプシコに売却した人物にしては、驚くべき発言だが、国際的な顧客基盤の拡大を目指すソーダストリームにとって、社会的責任の実践も重要な経営戦略の1つだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中