最新記事

2020米大統領選

増大する米国の財政赤字 大統領選に向けて争点化されないワケ

2019年7月17日(水)13時18分

来年の米大統領選に向け、6月下旬に野党・民主党の候補指名レース参加者が行った討論会では、「財政赤字」という言葉は全く口にされず、政府債務への言及も1回きりだった。写真はマイアミで行われた民主党のディベート。6月27日撮影(2019年 ロイター/Mike Segar)

来年の米大統領選に向け、6月下旬に野党・民主党の候補指名レース参加者が行った討論会では、「財政赤字」という言葉は全く口にされず、政府債務への言及も1回きりだった。

トランプ大統領の下で年間財政赤字と連邦債務は膨張が続いているという事実は米国にとって最も厄介な問題の1つであるはずなのに、民主党は争点にしたがらない。

その理由は、彼らが掲げる選挙公約のうち最も人気がある政策、例えばメディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険)拡充や、大学の学費や学生ローンへの公的補助などは、それ自体が財政負担を増大させるからだ。

同じく与党・共和党も、財政赤字を膨らませている2大要素であるトランプ氏の大規模減税と国防費の急拡大を喜んで後押しした手前、赤字問題については沈黙を守る方が自分たちの利益になる。トランプ氏への支持によって、多くの共和党議員は既に消えかかっていた財政均衡と連邦債務削減を目指す意思は事実上放棄したと言える。

共和党では財政タカ派と目されているロブ・ポートマン上院議員は「今回の選挙で財政赤字への対処に多大な関心が集まっているようには思われない」と嘆いた。

そのポートマン氏も、向こう10年で連邦債務を少なくとも1兆ドル増加させることになる2017年の減税を強く擁護していた。

危機感なし

多くのエコノミストは、債務増加は利払い費を高め、将来の政府に大幅な歳出削減を強いるだけでなく、米国によるデフォルト(債務不履行)を発生させ、世界的な混乱を巻き起こしかねないと懸念している。

米財政政策専門シンクタンク、超党派政策センターのシニアバイスプレジデント、ビル・ホーグランド氏は、債務増加を放置するのは玄関床下にシロアリを巣食わせるようなもので、普通に出入りしているうちに突然、床が崩れ落ちると警告する。

トランプ氏は16年の大統領選中にはだいたい8年で連邦債務を完済するとワシントン・ポスト紙に言い放ったが、17年1月の就任後には2兆4500億ドルも債務を増やしている。

現在の債務総額は22兆4000億ドルと過去最悪。米国民1人当たりではおよそ6万8000ドルの借金となる。今年の財政赤字は、オバマ前政権の最終年度だった17年度の6660億ドルから、9000億ドルに増え、22年までに年間1兆ドルに達する見通しだ。

議会予算局は先月公表した最新の長期見通しで「債務がこれほど高水準で増大し続けると見込まれることは、わが国にとって相当なリスクをもたらす」と対応を促した。

米経済が拡大し、物価上昇率と失業率が低く、株価が最高値圏で推移している今、本来なら政府は債務を減らす絶好の環境を生かせる立場にある。ところが実際には正反対の行動が続いている。

米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長は先月、財政赤字拡大について聞かれると「今のところ私は悩んでいない」と一蹴した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:大火災後でも立法会選挙を強行する香港政府

ビジネス

リオ・ティント、コスト削減・生産性向上計画の概要を

ワールド

中国、東アジアの海域に多数の艦船集結 海上戦力を誇

ワールド

ロシアの凍結資産、EUが押収なら開戦事由に相当も=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中