最新記事

台湾

香港デモの追い風が対中強硬派・蔡英文を救う

Xi is Tsai’s Best Poster Boy

2019年7月16日(火)18時30分
ヒルトン・イプ

magw190716_Taiwan.jpg

香港の抗議活動に刺激を受け、台湾では親中派の野党候補も慌てて「デモ支持」を表明 TYRONE SIUーREUTERS

一方で、国民党の親中派の候補者たちは、香港の抗議デモを受けて中国との距離感を変えざるを得なくなっている。中国との関係強化を前面に押し出して高雄市長に当選した韓は最近になり突然、態度を翻し、一国二制度を実現させるなら「私の屍(しかばね)を越えて行け」と言ってのけた。

蔡は習からも予想外の「援護射撃」を受けた。習は1月2日の演説で、台湾に一国二制度に向けた政治対話を呼び掛け、「祖国統一」を受け入れなければ侵攻の恐れもあると語った。

これまでにない単刀直入な表現に、台湾市民は警戒を強めた。蔡は数時間後に談話を発表し、台湾は中国が示す条件に基づく統一を決して受け入れないと言明した。

熱情的で、時に常軌を逸した行動に出る台湾の政治家の中で、蔡は生真面目に見えて、ややカリスマ性に欠ける。実績や政策はなくても気さくな人というイメージ戦略で人気を集めている韓や、海の女神「媽祖」のお告げで総統選への出馬を決めたと語る郭の華やかなキャラクターとは、極めて対照的だ。

もっとも、韓はカリスマ性こそ高いが、スローガンは中身が乏しくスキャンダルも少なくない。「台湾のドナルド・トランプ」「台湾のロドリゴ・ドゥテルテ」と、米大統領やフィリピン大統領になぞらえて揶揄されることもある。

彼が中国に気に入られていることは明らかだ。今年3月に香港を訪れた際は、行政長官や中国政府の出先機関、香港連絡弁公室のトップと会談している。

しかし、香港のデモを受けてあっさり手のひらを返した韓は一気に失速しそうだ。先日は、高雄と中国の温州を直行のフェリーで結ぶという計画を突然、発表し、台湾当局が即座に公式な話ではないと否定した。

内外からの圧力に耐えて

誰が国民党の総統選候補になっても、市民の間で中国に対する警戒心が高まっていることに対処しなければならない。ここで親中的態度を和らげた以上、総裁選でも引き続き、中国に対して強硬な姿勢を示さざるを得ないだろう。

それに対し、蔡は一貫して中国への従属を拒否してきた。その結果、中国は公的な交流を中断し、台湾への旅行客を抑制している。さらに、台湾近海には軍艦を派遣し、軍用機は異常接近を繰り返している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済、「信じられないほど」力強い=JPモルガンC

ワールド

北朝鮮、圧倒的な軍事力構築を継続へ─金与正氏=KC

ビジネス

米ビザ、四半期利益が予想上回る 堅調な消費動向で 

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中