最新記事

動物

船に乗った? ホッキョクギツネがノルウェーからカナダまで3500キロ移動

2019年7月5日(金)17時40分
松岡由希子

GPS首輪を装着して衛星で追跡した Elise Stromseng/Norwegian Polar Institute

<ノルウェーの研究チームの調査で、ホッキョクギツネがノルウェーからカナダ最北部までの3500キロメートルの行程をわずか76日間で移動したことがわかった>

若い雌のホッキョクギツネがノルウェーのスヴァールバル諸島からカナダ最北部のエルズミア島までの3506キロメートルの行程をわずか76日間で移動したことがわかった。

GPS首輪をつけて、衛星で追跡した

ノルウェー極地研究所(NPI)とノルウェー自然研究所(NINA)との研究チームは、ホッキョクギツネがスヴァールバル諸島からエルズミア島まで移動した様子を衛星で追跡し、2019年6月24日、極域科学に関する学術雑誌「ポーラー・ジャーナル」でその追跡結果をまとめた研究論文を発表した。


研究チームは、2017年7月14日、スヴァールバル諸島で最大のスピッツベルゲン島の西海岸クロスフィヨルデンでホッキョクギツネにGPS首輪を装着し、その行動を衛星で追跡しはじめた。

ホッキョクギツネは2018年3月26日、スピッツベルゲン島を発ち、21日後の4月16日、1512キロメートル離れたグリーンランドに上陸した後、さらに移動を続けて6月6日にはグリーンランドを離れ、7月1日にエルズミア島で定住した。3月26日から7月1日までの76日間で移動した距離は3506キロメートル。

ホッキョクギツネがクロスフィヨルデンから移動しはじめた3月1日以降、スピッツベルゲン島の東海岸を離れる3月26日までの移動距離を加算すると、3月1日から7月1日までの4ヶ月で4415キロメートルを移動したことなる。これまでに記録されたホッキョクギツネの移動距離としては最長だ。

1日155キロ! 「船に乗った?」しかし、周辺に船はなかった

移動距離の長さだけでなく、移動速度にも注目が集まっている。ホッキョクギツネは、1日あたり平均46.3キロメートルのペースで、北極海の海氷を渡り、グリーンランドの氷河を超え、一時はグリーンランド北部の北緯84.7度の地点に到達し、やがてエルズミア島にたどり着いた。グリーンランド北部では、ホッキョクギツネの移動速度として史上最速の1日あたり155キロメートルで移動したこともわかっている。

研究論文の筆頭著者であるノルウェー極地研究所のエヴァ・フグリイ博士は、ノルウェー放送協会(NRK)の取材に対して「最初は信じていなかった。ホッキョクギツネが死んでしまい、船にのせられたのだろうと考えていたが、そのエリアに船はなかった。非常に驚いた」と追跡当時の様子を振り返っている。

温暖化で海氷消失したらどうなる......

3506キロメートルにわたるホッキョクギツネの移動において重要な役割を果たしたのが氷だ。ホッキョクギツネは、海氷のおかげで、厳しい冬に食料を求めて他の地域へ移動できる。地球温暖化に伴って北極海の海氷面積が縮小傾向にあるが、この現象は、ホッキョクギツネなどの野生動物にも深刻な影響をもたらすおそれがある。

ノルウェーのオーラ・エルヴェストゥーエン気候・環境大臣は「この研究成果は海氷が北極の野生動物にとっていかに重要かを示すものだ。北部での温暖化は恐るべき速さですすんでいる。北極で夏の海氷が消失しないよう、温室効果ガスの排出量削減に取り組まなければならない」とコメントを寄せている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏とフアン氏、米サウジ投資フォーラムでAI討

ビジネス

米の株式併合件数、25年に過去最高を更新

ワールド

EU、重要鉱物の備蓄を計画 米中緊張巡り =FT

ワールド

ロシアの無人機がハルキウ攻撃、32人負傷 ウクライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中