最新記事

ロケット

日本の天文衛星も影響を受けた流転のウクライナ製ロケット、カナダで受け入れへ

2019年6月10日(月)15時30分
秋山文野

カナダで打ち上げられそうなサイクロン4ロケット Maritime Launch Services.-YouTbe

<2011年に日本の超小型天文衛星「ナノジャスミン」が打ち上げられる予定だったウクライナのロケットだったが、政治に翻弄され、ようやくカナダで打ち上げられる予定となった>

打ち上げを待ち続ける日本の超小型天文衛星「ナノジャスミン」

完成から今年で9年目、いまだに打ち上げを待ち続けている日本の天文衛星がある。「「Nano-JASMINE(ナノジャスミン)」と名付けられた超小型衛星は、天の川の中心付近の天体の位置と時刻変動を観測する"位置天文衛星"だ。

天球上の星の「地図」を作り、恒星が惑星を持っているか、連星の存在といった天文学の基礎データを得ることができる。国立天文台と東京大学のチームは、1990年代に活躍した欧州の「ヒッパルコス」という大型の位置天文衛星に匹敵する機能を、わずか33キログラムの衛星で実現。2010年秋にフライトモデルを完成させ、2011年の打ち上げを待つばかりだった。

jasmine-nano.jpg

出典:国立天文台JASMINEプロジェクト

ウクライナ製のロケット計画が頓挫

位置天文分野の先駆けである欧州からも活躍を期待されていたナノジャスミンだが、搭載予定だったウクライナ製のロケット計画が頓挫した。ロケットの名を「Cyclone 4(サイクロン4またはツィクロン4)」という。

サイクロン4は、旧ソ連時代からロケット開発技術を持つウクライナの商業衛星打ち上げロケットとして計画された。ウクライナとブラジルによる合弁企業「アルカンタラ・サイクロン・スペース」が設立され、ブラジル北部のマラニョン州にあるアルカンタラ射場から打ち上げが行われる計画だった。アルカンタラ射場は南緯2度30分と、世界のロケット射場の中でもトップクラスで赤道に近い。東側は大西洋が開けており、地球の自転を利用した打ち上げに有利な条件のよい場所だ。地の利とウクライナの技術を活かし、静止衛星にも、打ち上げ需要の増加が予想されていた小型衛星にも対応できる期待の宇宙ビジネスになるはずだった。

しかし、資金難からウクライナ側のロケット開発とブラジル側の射場整備が難航した。さらに、サイクロン4ロケットの技術に関する知的財産の一部をロシアが保有しているという事情もあった。ウクライナとロシアの関係悪化の影響を受け、打ち上げは何度も延期された。2015年4月、ブラジルは計画の中止を発表。サイクロン4打ち上げ事業は頓挫した。

行き場をなくしたサイクロン4ロケットが「北米へ射場移転を模索」という報道は翌年の2016年に米宇宙メディアに現れた。太陽同期軌道(1日のほぼ同じ時間に同じ場所の上空を通過できる南北の軌道)への打ち上げ能力は3.7トン、1機あたりの打ち上げ価格は4500万ドル(約49億円)と手頃な価格を表明していた。比較的近い能力を持ち、同じ南米の仏領ギアナから打ち上げられるソユーズロケットは太陽同期軌道に4.4トン、価格は8000万ドルとされる。

Cyclone-4M.jpg

Credit: Maritime Launch Services.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7、ロシアに圧力強化必要 中東衝突は交渉で解決を

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中