最新記事

北朝鮮

電気がない北朝鮮で「エアコン爆買い」が起きる独特の事情

2019年5月28日(火)14時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※NKNewsより転載

昨年夏に食品工場を視察する金正恩 KCNA-REUTERS

<季節外れの猛暑で中国から輸入される家庭用エアコンへの注文が殺到している>

ただでさえ劣悪だった北朝鮮の電力事情が、さらに酷さを増している。1日数時間しか電気が供給されない地域もあれば、電気が全く来ない地域もある。

そんな中で、どういうわけかエアコンの輸入が急増していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。背景には、貧富の格差拡大があるようだ。

<参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに

中国丹東の貿易業者によると、今月の半ばから、北朝鮮の貿易業者から家庭用エアコンの注文が殺到している。電力事情がよくない北朝鮮からエアコンの注文が殺到するのは非常に珍しいと業者もビックリだ。

<参考記事:「金正恩印」のお菓子作りに失敗した5人の悲惨な運命

「北朝鮮で本格的な夏が来るのは2カ月近く先なのに、このように早くからエアコンの注文が殺到しているのは非常に訝しい」(情報筋)

エアコンの注文が殺到しているのは、季節はずれの猛暑によるものと思われる。

北朝鮮の国営朝鮮中央テレビの20日の天気予報は、北部山間地で霜が降りると予報した一方で、24日には平壌の最高気温が31度、恵山は32度、咸興に至っては33度になると予報した。北朝鮮でこの時期のこの気温は、異常な高温現象と言える。

注文を受けた中国の貿易会社も、あまり良い顔はしていないようだ。エアコンは国連安全保障理事会の制裁品目に含まれていて、税関は中国への輸出を厳しく制限しているからだ。

エアコンを輸出するには、密輸業者に依頼するしか方法がないが、1台あたり500元(約7960円)から800元(約1万2700円)もの費用がかかる。その費用は北朝鮮の業者が負担するようだが、それでも摘発されれば、中国の貿易会社にも累が及ぶ。危ない橋は渡りたくないということなのだろう。

別の業者によると、昨年は猛暑が始まった7月中旬から北朝鮮からのエアコンの注文が殺到した。猛暑は中国も同じで、商品の確保が難しく、納期に間に合わなかったとのことだ。

「国際社会の経済制裁に加え、昨年の凶作で食糧事情も苦しく電力事情もよくない北朝鮮がエアコンを大量に注文するのは、中国の貿易業者も極めて異例のことだとの反応を示している」(業者)

北朝鮮でも少しでも余裕のある家庭では、ソーラーパネルを設置して電気を賄っている。しかし、テレビや照明器具、扇風機を作動させるのが関の山だ。エアコンを使うにはかなり大掛かりな装置が必要となる。それでは、エアコンを輸入しているのは誰なのだろうか。

「経済的困難のない平壌の特権層は、一般住民の暮らし向きには関心がなく、ディーゼル発電機でいつでも電気が使えるので高級家電を買い求めようとする」(脱北者のリさん)

高級ブランドを買い求め、食事に何百ドルの大枚を叩く特権層にとって、電力難などどこ吹く風のようだ。

※当記事は「NKNews」からの転載記事です。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

dailynklogo150.jpg



ニューズウィーク日本版 トランプの帝国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月10号(2月3日発売)は「トランプの帝国」特集。南北アメリカの完全支配を狙う新戦略は中国の覇権を許し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中