最新記事

月は死んでいない──ゆっくり収縮し、月面が震動する活発な活動状態にあった

2019年5月16日(木)18時30分
松岡由希子

月周回無人衛星LROが撮影したティコクレーター NASA

<アポロ計画を通じて観測した約50年前のデータと月周回無人衛星LROの画像データを組み合わせ、月面が震動する活発な状態にある可能性があることがわかった>

月は小惑星や流星が激しく衝突する混沌とした環境下で形成されたと考えられている。この衝突によって熱が発生したため、形成当初の月は非常に高温であったが、時が経つにつれて次第に冷えながら収縮し続けており、月の収縮に伴って、月面の地殻は脆くなり、ある地殻が隣接する部分に押し上げられる「衝上断層」が形成されている。

そしてこのほど、これら「衝上断層」が活発な状態にあり、月面が震動する「月震」を引き起こしている可能性があることがわかった。

アポロ計画で月に設置した地震計データを解析

アメリカ航空宇宙局(NASA)では、「アポロ計画」のアポロ11号、12号、14号、15号、16号のミッションで月面に地震計を設置し、1969年から1977年までにマグニチュード2から5の浅発月震を28回観測した。

国立航空宇宙博物館(NASM)地球惑星研究センター(CEPS)の上級研究員トーマス・ワターズ博士らの研究チームは、地震観測網が検知した震源地の位置を正確に特定するアルゴリズムを独自に開発し、このアルゴリズムを使って月震データを解析した。

その結果、全28回のうち8回の月震は「衝上断層」から30キロメートル圏内を震源地としていた。また、これら8回のうち6回は、月が遠地点(月が公道軌道上で地球から最も遠くなる点)から1万5000キロメートル未満に位置するタイミングで発生したものであった。地球の重力からの潮汐応力が加わることで応力がピークに達し、断層のすべり現象が起きやすくなったとみられている。

最近の月震で地滑りがおきていた......

研究チームは、2019年5月13日に学術雑誌「ネイチャージオサイエンス」で掲載された研究論文において「月震の震源地と『衝上断層』が近いことから、月は構造的に活発である」と結論づけている。

press_image_1_v2.jpgNASA/GSFC/Arizona State University/Smithsonian

「衝上断層」が活発な状態にあることは、NASAの月周回無人衛星LRO(ルナー・リコネサンス・オービター)が2009年以降に撮影した3500件以上の「衝上断層」の高解像度画像でも示されている。

月面の物質は太陽や宇宙放射線にさらされることで徐々に薄黒くなるものだが、一部の画像では、「衝上断層」やその近くにある地すべりや岩が比較的明るく映っていた。これはつまり、最近の月震で地滑りがおき、宇宙空間にさらされはじめたものだと考えられる。

人類の月探査において優先すべき課題

NASAゴダード宇宙飛行センターのジョン・ケラー博士は「アポロ計画を通じて観測した約50年前のデータとLROの画像データを組み合わせ、月への解明を前進させたことは、非常に素晴らしい」と一連の研究成果を高く評価している。

また、研究論文の共同著者でもあるNASAマーシャル宇宙飛行センターのレニー・ウェーバー博士は「月面に新たな地震観測網を構築することは、月の内部構造の解明をすすめるうえでも、危険な月震がどれくらい存在するかを測定するためにも、人類の月探査において優先すべき課題だ」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

LSEG、金融データをチャットGPTに統合へ AI

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、日銀利上げ見通しで一

ワールド

香港当局、高層住宅火災受け防護ネット全面撤去へ

ワールド

インドネシア、採掘規則違反企業を処分へ 洪水で死者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中