最新記事

中国経済

中国、キャッシュレス先進国ゆえの落し穴──子の借金が親に降りかかる

2019年5月16日(木)18時40分
片山ゆき(ニッセイ基礎研究所)

消費意欲旺盛な中国の若者で賑わう香港の高級品売り場 Liau Chung ren - REUTERS

<リテラシーなき利便性追求が「財布をもたない世代」を過大な借金に走らせる>

今年の初めごろ、中国のネット上ではこんな言葉が出回った。

「オフィスにいるのはこんな3世代。貯金好きの40代、投資好きの30代、借金ばかりの20代。20代の借金を親が替わりに返済している1」

これは、1990年代生まれの20代が、それまでの世代と消費のあり方が大きく違うことを意味している。つまり、欲しいものがあって、持っているお金が足りないという現実があっても、スマホで瞬時にかつ安易に入手できてしまうということだ。そのツケの多くは、おそらく貯金好きの40代の親が支払うことになるのであろう。

中国における急速なキャッシュレス化を表現する言葉としてよく使われるのが「リープフロッグ(カエル跳び)現象」である。社会インフラや社会サービスの整備が進んでいない新興国で、先進国の最新の技術やサービス等を導入したため、先進国のそれまでの段階的な歩みを飛び越えて一気に普及することを意味している。

国が大きく成長する上で様々なコストをカットでき、サービスの利便性を一気に高めるという利点がある。しかし、あまりにも大きく変わってしまうため、それに伴うリテラシーの形成が置き去りにされてしまうという弱点もある。

消費のあり方も同様である。アリペイ、Wechatペイなど、キャッシュレス化の急速な浸透により、中国の消費のあり方は大きく変わった。アリババ、テンセントはそれぞれ経済圏を形成し、ユーザーはその中で生活に関するあらゆるサービスを享受している。

つまり、冒頭の20代はそれまでの世代とは異なり、経済圏内での本人の信用偏差値を使ってお金を簡単に借りたり、クレジット払いにすることが可能になった。手元のスマートフォンで、数秒待てば即利用できる。高額商品のクレジット払いやレンディングは、親元を離れる大学生ごろから始まる。現在の大学生は2000年以降生まれた世代、「00後」だ。

00後は、次代の消費を握る世代として、その動向が注目されている。親世代は、中国の高度経済成長の恩恵を受け、その子どもである彼らは、その前の世代と比較して経済的にも物質的にも豊かな子ども時代を過ごしている。ほとんどが一人っ子のため、幼いころから様々なモノや愛情を独占的に受けており、消費意欲も旺盛である。

加えて、彼らが誕生した2000年ごろは、テンセント(1998年)、アリババ(1999年)、Baidu(2000年)など現在中国を牽引するプラットフォーマーが誕生している。ITの発展とともに成長したデジタルネイティブでもあり、モノを買っても現金で支払ったことがほぼない「財布を持たない」世代でもある。

大学のネット決済比率は98%

中国のリサーチ会社であるIResearchの「2018年大学生消費洞察報告」によると、大学生の日々の生活はネットによって成り立っていることが分かる。

大学生のうち、90.7%はネット通販の淘宝(タオバオ)を日常的に使い、生活用品を揃えている。大学生のネット決済の使用率は96.8%で、もはや現金を代替しているといえよう。パソコンやスマホなど高額商品を買う場合は、クレジットアプリで分割購入も可能で、およそ半数に相当する50.7%が使用している。

自身の支払能力にかかわらず、消費や入手が可能なため、物の所有や機会の均一化が可能となったともいえよう。しかし、金融リテラシーがしっかりしていない大学生が、気づかないうちに多額の債務を抱えてしまうといった事態も起きている。

――――――――
1 2019年1月29日付、経済日報、「70後存銭、80後投資、90後負債!超前消費引発年軽"負翁"頻現」、http://news.cnnb.com.cn/system/2019/01/29/030023879.shtml

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管

ワールド

アングル:シンガポールの中国人富裕層に変化、「見せ

ワールド

チョルノービリ原発の外部シェルター、ドローン攻撃で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中