最新記事

北朝鮮

朝鮮半島を不安定化させるトランプの金正恩「愛」

Trump's Love of Kim Creates a 'Destabilizing Situation' Among Allies

2019年5月15日(水)16時22分
ジェイソン・レモン

金正恩に、会えばご機嫌のトランプ(2018年6月、シンガポールで) KCNA/REUTERS

<昨年6月以来、2度の米朝首脳会談を開きながら、北朝鮮の非核化どころかミサイル実験が再開した。トランプが同盟国の言うことより金正恩の言うことを信じるからだ>

バラク・オバマ政権下で国家安全保障問題担当の大統領副補佐官を務めたベン・ローズは先週、アメリカの同盟国よりも北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長を信頼するドナルド・トランプ大統領の姿勢が「危険で不安定な状況」を助長し、全世界に影響を及ぼすおそれがあると警告を発した。

ローズのコメントは、北朝鮮が今月に入って2度目のミサイル発射実験を行ったことを受けたもの。ローズをインタビューしたMSNBCの番組司会者は、2月にベトナムで開かれた初の米朝首脳会談の際に、金が兵器実験は実施しないと信じている、と断言するトランプのVTRを流した。「彼の言葉をそのまま信じる」とトランプは当時、語っていた。

「これまでに見てきた限りでは、トランプ大統領は金正恩を褒め上げ、華々しい首脳会談を楽しんでいるようだが、実際にはなんの進展もない」とローズは語った。「北朝鮮は、核開発計画をまったく縮小していない。弾道ミサイル計画もまったく縮小していない」

<関連記事>「何も決めない」米朝首脳会談を生んだトランプ外交

「この大統領が金正恩の言葉を何度でも信用するのは、きわめて異常なことだ」

国家安全保障の専門家であるローズは、トランプは北朝鮮ではなく、韓国や日本といった同盟国と密に連携すべきだと指摘した。トランプは、「一貫して同盟諸国を金正恩よりも軽く扱っており、そのせいで世界全体がきわめて危険で不安定な状況になっている」とローズは述べた。「アメリカは、きわめて近しい同盟諸国から約束を守れない国と見なされている」

<関連記事>米朝首脳会談で戦争のリスクは高まった

ローズによれば、金としてもトランプは御しやすい相手だ。「トランプにお世辞を言い、派手な舞台さえ与えておけば、あとは何も必要はない」

核開発計画はむしろ拡大

トランプが金をたびたび称賛し、非核化の可能性に関して楽観的な発言を繰り返す一方で、米朝政府間の協議は2月末にベトナムのハノイで行われた2度目の米朝首脳会談が決裂して以降、つまずいたまま。

そして北朝鮮は5月4日、1年5カ月ぶりに弾道ミサイル実験を再開した。それでもトランプは、金は「わたしとの約束を破りたいとは思っていない」と述べた。

5月8日には、米国防総省捕虜・行方不明者調査局(DPAA)の報道官が、北朝鮮に残された数千体にのぼる米兵の遺骨収集を一時中止したことを認めた。北朝鮮と連絡が取れなくなったためだ。トランプは以前から、遺骨を返還するという金の約束を褒めそやしてきたのに、それも裏切られた。

専門家たちは以前から、トランプ政権の対北朝鮮政策を懐疑的に見ていた。ローズも指摘しているように、トランプの楽観的な発言にもかかわらず、金は北朝鮮の非核化を実現するための意味のある政策を何もとっていない。衛星画像や複数の報告は、協議を継続するかたわらで、北朝鮮が実際には核開発計画を拡大していることを示唆しているというのに。

<関連記事>北朝鮮は核開発を継続している、元CIA分析官が警告

(翻訳:ガリレオ)

20190521cover-200.jpg
※5月21日号(5月14日発売)は「米中衝突の核心企業:ファーウェイの正体」特集。軍出身者が作り上げた世界最強の5G通信企業ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)。アメリカが支配する情報網は中国に乗っ取られるのか。各国が5Gで「中国製造」を拒否できない本当の理由とは――。米中貿易戦争の分析と合わせてお読みください。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中