最新記事

中東

トランプがムスリム同胞団のテロ組織指定で失うもの

RISKY POLICY

2019年5月11日(土)14時00分
クリスティナ・マザ

エジプトのシシ大統領(左)はムスリム同胞団を基盤とする当時のモルシ大統領を退陣させた13年のクーデターを主導した Kevin Lamarque-REUTERS

<穏健な巨大組織をテロリスト呼ばわりすれば、中東の数千万人を敵に回すことになる>

トランプ米大統領は4月30日、1928年にエジプトで結成され、国際的に活動を展開しているイスラム主義運動「ムスリム同胞団」をテロ組織に指定する意向を表明した。歴代の米大統領の政策と一線を画す動きであり、アメリカと中東の政治的関係に影響を及ぼしかねない。

そうは言っても、テロ組織指定までの道のりはまだ遠い。トランプ政権の対テロ当局はまず、国務長官、司法長官と財務省に対し、ムスリム同胞団がテロ組織であることを裏付ける証拠を示さなければならない。その後さらに連邦議会が指定の阻止を試みる可能性もあり、ムスリム同胞団には決定を不服として法廷で争う機会も与えられる。

それでもテロ組織としての指定が承認された場合はどうなるのか。専門家はその決定が、アメリカと中東の合法的・民主的な各勢力との関係を悪化させる可能性があると指摘する。

影響が及ぶのは「トルコやカタールなどムスリム同胞団寄りの国との関係だけではない」と、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのH・A・ヘリヤー客員上級研究員は言う。「クウェートやヨルダン、バーレーンなどとの関係にも悪影響が及ぶ可能性がある。ムスリム同胞団はこれらの国でも活動を展開しており、出身者が政府の要職に就いている例もある」

ヘリヤーはムスリム同胞団には世界中に多くの支部や関連組織があるとして、こうも指摘する。「トランプ政権が世界中の関連組織を標的にしているのか、あるいは特定の国で活動する単一組織を標的にしているのか、それとも全く別のものを標的にしているのか。それによって影響は異なる」

テロ組織に指定されれば、そのメンバーだけでなく、ムスリム同胞団と取引をしている側にも制裁が科される。そうなれば、中東の数百万、数千万の人々がアメリカと敵対することになりかねない。

テロ組織の基準満たさず

「テロ組織の指定は、普通ならアルカイダやISIS(自称イスラム国)のような小規模な過激派組織について行われるものだ」と、ブルッキングズ研究所のシャディ・ハミドは最近のインタビューで語っている。「これは前例のない動きだ。自由世界のリーダーであるアメリカが、何百万、何千万という数の人をテロリスト呼ばわりすることになるのだから」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中