最新記事

宗教

イスラム教の聖なる断食月ラマダンとは? 世界一信者の多い国の現実

2019年5月9日(木)21時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

日の出前に起きるので午後は夕方のイフタールまでモスクで休憩をとる人も多い Beawiharta Beawiharta - REUTERS

<世界最多のイスラム信者がいるインドネシアはラマダンの時期、朝から夜までイスラム教中心の生活となるが、それは非イスラム教徒にも求められるようだ>

人口約2億5000万人の約88%を占める世界最大のイスラム教徒人口を擁する東南アジアの大国インドネシア。この国では5月6日から約1カ月間、イスラム教の重要な宗教行事である「ラマダン(断食月)」を迎えている。
首都ジャカルタでは多数を占めるイスラム教徒が教義に従って進める断食に、少数派であるキリスト教徒、仏教徒、外国人も心配りや配慮をしながら日々を送っている。 その様子はまさに「イスラム教徒は敬虔に過ごしている」のと対照的に「異教徒は息を潜めながら時を過ごしている」という感じである。

断食月、食事以外にも制約が

ラマダンはイスラム暦の9月を意味する言葉で、この月に予言者ムハンマドにコーランが啓示されたことから聖なる月となっており、イスラム教徒はこの期間日の出前から日没にかけて「断食(=サウム、インドネシア語ではプアサ)」をして一切の飲食、喫煙を断つことになっている。禁じられているのは飲食だけではなく、人を怒ったり、怒鳴ったりすることや猥せつな妄想を抱くこともタブーとなっている。

断食を行う理由は、食欲という人間の欲望に打ち勝つことでイスラム教徒を自覚し、貧しい人びとや飢えた人びとを思いやり、世界中のイスラム教徒との連帯感を共有するためとされている。

このためイスラム教徒は未明に起床してサフルという食事を家族と食べて、2度寝して普段通りに通勤、通学となる。午後5時半前後の毎日決められた時間にイフタールという食事を取り、飲食が解禁となる。

イフタールは家族、職場の仲間らと一緒にまずは水と「コラック(バナナなどが入ったココナツミルクのぜんざいのようなもの)」などの甘い飲み物で喉を潤してから食事するなど、空腹状態にある胃への負担を軽減することも忘れない。

未明の朝食があるため夜は早めに就寝する。日中の性交渉は夫婦間といえども一応禁忌であり、夜でも夫婦間によらない性交渉はご法度になっている。

レストランの垂れ幕の理由

ジャカルタ中心部にあるサリナ百貨店の1階には「マクドナルド」や「ケンタッキーフライドチキン」などのファストフード店が並んでいる。そうした店ではラマダン期間中、外部に面したガラス窓は全て白い布で覆われて内部が見えないように工夫されている。

このほか街角などにある小規模レストランや食堂もほぼ例外なく夕方からの営業で日中は閉店しているか、色とりどりのカーテンや垂れ幕、ビニールなどで内部を覆い隠している。

これは店内で日中に飲食する非イスラム教徒などの姿を断食中のイスラム教徒の目に敢えて触れさせないための配慮といわれている。

もっとも口さがないインドネシア人は「実はあの覆いは中でこっそり飲食しているイスラム教徒を隠すためともいわれている」と軽口をたたく。

断食の約1カ月の期間中、初めの数日間と最後の数日間だけ断食を実行する「断食のキセル」といわれる方法も存在する。何らかの事情で継続して断食できないイスラム教徒──例えば入院、海外旅行、生理などの場合──これを行っているが、そうした場合でも実行できなかった日数分を翌年の断食までに自分で日を決めて「自主的な断食」で日数不足を補うことが求められる。

newsweek_20190509_200729.JPG

白いカーテンでまるで営業しているとは思えないケンタッキーフライドチキン(撮影=筆者)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英ロンドンで大規模デモ、反移民訴え 11万人参加

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 10
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中