最新記事

フィリピン

比ドゥテルテ、超コワモテ外交が効果 カナダが不法輸出の産廃コンテナ69個回収

2019年5月29日(水)19時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

フィリピンの強硬姿勢にカナダも妥協

こうした状況に対してフィリピン政府のサルバドール・パネロ報道官は「ドゥテルテ大統領は回収返送の手続きが6月末までかかるということは許さないとしている」と表明してドゥテルテ大統領の「怒り」をカナダ側に伝えた。

その「怒り」が本気であることを証明するかのように、フィリピン政府はさらなる外交措置として5月26日に政府職員によるカナダ訪問の禁止通達を出す。これに伴い両国間の政府間交渉や連絡が一時的に凍結されることになり、カナダ政府は速やかな判断を求められる立場に追い込まれた。

こうしたドゥテルテ大統領の強気一辺倒の姿勢が功を奏した形となり、残っていた書類上の最終的な手続き、さらにカナダの民間企業が用意した回収用のコンテナ船に積み込む前の産廃ゴミが詰まったコンテナの消毒作業も終わり、あとは30日の積み込みと出港を待つところまでようやく漕ぎつけることになった。

東南アジアで相次ぐ「ゴミ捨て場」問題

フィリピンではカナダのほかにも、国外からの不法産廃ゴミ持ち込みが問題となっており、5月14日には、南部ミンダナオ島の東ミサミス州タゴロアンの国際港にオーストラリアから到着したコンテナを税関や港湾当局が検査したところ、リサイクルが難しい金属片、岩石、土壌、携帯電話部品、プラスチックゴミが発見される事件も起きた。

輸入業者はセメント工場での燃料として使用するとして輸入許可を取っていたというが、燃料として使用すれば有害物質を排出する可能性のある産廃ゴミもあり、別の環境法に抵触する可能性もあるとして輸出入の手続き上の問題を調査している。地元のネットメディア「ラップラ―」が報じた。

このほか「ビジネス・タイムズ」などによると2019年2月に香港から同港に到着したコンテナ70個から申告書類と異なる電化製品の廃棄物や金属部品が発見され、25トン分を香港に近く返還することになったという。

このようにカナダの一件を契機に、フィリピンでは申請書類に関わらず、港湾地区に保管されているコンテナや新たに到着するコンテナの調査を続けており、再生不可能ないわゆる産廃ゴミが相次いで発見される事態となっている。

こうした傾向はフィリピンだけに留まらず、マレーシアでもスペインからの輸出コンテナに違法な産廃ゴミが含まれていることが発覚、政府が輸出国へ回収を求めるなど、東南アジアが「世界のゴミ捨て場」とされる事件が起きている。今後は各国個別の対策ではなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)としてなんらかの対応策が求められることになりそうだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

米国務長官、カタールに支援継続呼びかけ イスラエル

ビジネス

NY州製造業業況指数、9月は-8.7に悪化 6月以

ビジネス

米国株式市場・午前=S&P・ナスダックが日中最高値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中