最新記事

インドネシア

違法操業の外国漁船は沈没させよ インドネシア強硬派大臣は「女ゴルゴ13」

2019年5月13日(月)18時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

拿捕漁船の売却も効果なく

newsweek_20190513_180412.JPG

「女ゴルゴ13」の異名をもつインドネシアのスシ・プジアストゥティ海洋水産相(撮影=筆者)

こうした閣内や議員からの指摘に加えて、拿捕した漁船の当該外国政府などからの返還要求などを受けて一時期拿捕漁船を当該国の関係者や業者に売却して返還する方法を実施したこともある。

しかし2019年1月にナツナ海域で拿捕したベトナム漁船の中に、以前拿捕して売却処分した漁船が含まれていたことから「売却は問題の根本的解決にはつながらない」、として処分問題が再び浮上、今回の措置となったという。

ベトナムなどの外国漁船はキハダマグロやメバチマグロなどが高価格で取引されることからインドネシア当局による拿捕も覚悟で違法操業を続けており、広大な南太平洋でイタチゴッコが繰り広げられており、拿捕されるのは氷山の一角という。

ところが今回強硬的な拿捕漁船の処分再開が発表されたことに対し、再び同様の反発が閣内から浮上した。

省内のタスクフォースに解散要求

インドネシアで違法操業する外国漁船の摘発に主に当たっているのは海洋水産省にスシ海洋水産相の肝いりで、ジョコ・ウィドド大統領の賛同を得て特設された特別タスクフォース「サットガス115」という組織であるが、このタスクフォースに対し「海上保安機構と海軍で十分であり、もはや不要な組織であり、解散するべきだ」との注文が付いたのだ。

「サットガス115」の不要論を明らかにしたのは同じルフト・パンジャイタン海事担当調整相で、これに対しスシ海洋水産相は「重要な役割を現在も担っているサットガス115を創設したり廃止したりすることができるのはジョコ・ウィドド大統領だけである」と反論。陸軍特殊部隊出身の退役陸軍大将でもある同調整相とスシ海洋水産相の確執が閣内では話題になっている。

逆風に負けない「女ゴルゴ13」

こうした身内からの逆風にも動じない姿勢を貫いているスシ海洋水産相は「こうした強硬策は違法操業漁船への神の怒りである。我々は拿捕するだけなく、漁船の所有者、所属会社、当該国外交団にも警告を発している」とあらゆる手段で対応策を講じていることを明らかにしている。

「サットガス115」について海洋水産省関係者は「海上保安機構はインドネシアの沿岸警備海洋問題一般を担当しているが、サットガス115は違法操業漁船問題に特化した組織であり、その役割は異なる」と説明している。

海洋水産省によると、強硬策導入以前の2014年に710万トンだったインドネシアの漁獲高は2016年には1250万トンに増加するなど効果を上げているとしている。

2018年には86隻のベトナム漁船を筆頭に20隻のマレーシア漁船、14隻のフィリピン漁船など125隻を拿捕した後処分している。

スシ海洋水産相は、日本の人気コミック「ゴルゴ13」(さいとう・たかを作)で違法漁船を爆発するシーンでモデルにされ描かれるなど国際的にも知られており、インドネシア国内ではダミ声、足の刺青、ヘビースモーカーという型破りな大臣として人気が高い。「女ゴルゴ13」「爆破大臣」「刺青大臣」など数々の異名を持つスシ海洋水産相が進める、違法操業の外国漁船に対する拿捕、水没処分という強硬策についてもインドネシア国民は高く評価・支持している。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニュース速報

ワールド

米ロ首脳が初会談、核軍縮・サイバー問題で対話枠組み

ビジネス

FRBの利上げ予想、低金利見通しに影響せず=ホワイ

ビジネス

米、国際最低税率で中国の例外扱いに同意せず=財務長

ビジネス

バイオジェン・エーザイのアルツハイマー新薬、米病院

MAGAZINE

特集:ルポ 武漢研究所のウソ

2021年6月22日号(6/15発売)

新型コロナウイルスの発生源と疑われる中国の研究機関は危険な感染実験を繰り返していた

人気ランキング

  • 1

    中国の原発で放射線漏れの疑い チェルノブイリを彷彿とさせる透明性の欠如

  • 2

    コロナ研究所流出説を裏付けるコウモリ動画

  • 3

    将来の理数系能力を左右する「幼児期に習得させたい」5つのスキル

  • 4

    カメラや望遠鏡が、紙のように薄くなる?光学素子が…

  • 5

    新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」…

  • 6

    新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタ…

  • 7

    インド型変異株(デルタ株)は従来株と症状が違うの…

  • 8

    「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型…

  • 9

    病院がICUを放棄? 無人の部屋に死体のみ、訪ねた親…

  • 10

    無計画な植林が環境を破壊している 侵略種化や8割衰…

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウンゴールで五輪に失敗した」

  • 3

    国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル

  • 4

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執す…

  • 5

    中国の原発で放射線漏れの疑い チェルノブイリを彷…

  • 6

    将来の理数系能力を左右する「幼児期に習得させたい…

  • 7

    病院がICUを放棄? 無人の部屋に死体のみ、訪ねた親…

  • 8

    ノーベル賞を受賞した科学者の私が、人生で後悔して…

  • 9

    歴史に置き去られた世界の廃墟たち...不気味で美しき…

  • 10

    コロナ研究所流出説を裏付けるコウモリ動画

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    脳が騙される! 白黒の映像が、目の錯覚でフルカラーに見える不思議な体験

  • 3

    国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル

  • 4

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウン…

  • 5

    東京オリンピックの前向きな中止を考えよ

  • 6

    武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得…

  • 7

    閲覧ご注意:ネズミの波がオーストラリアの農地や町…

  • 8

    【ファクトチェック】肛門PCR検査は中国で義務付けら…

  • 9

    ファイザーのワクチンで激しい副反応を経験した看護…

  • 10

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執す…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

STORIES ARCHIVE

  • 2021年6月
  • 2021年5月
  • 2021年4月
  • 2021年3月
  • 2021年2月
  • 2021年1月