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ノートルダム大聖堂はなぜフランスの象徴か

2019年4月22日(月)19時00分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

この建築は、ゴシック様式といわれているが、ルネサンス期のイタリアで従来の決まりと技術を守らなかったために軽蔑の意味で蛮族の名を冠しゴート族式と呼んだもので、この言葉ができる前は「フランス式」といわれていた。ギリシャ・ローマ文化を咀嚼してフランスの文化というものを創造した記念碑でもある。

今では、教会の前は広場になっているが、これは、19世紀後半のパリ大改造の時に作られたもので、それまでは集合住宅が密集していた。つまり街の中にこつ然と現れる大建築であった。

別に神に祈るためではなくとも、機会あるごとに人々が集まった。災害があると人々はノートルダムに避難した。

大聖堂は平安末期の1163年から南北朝時代の1345年にかけて建設されたが、着工から50年後ぐらいには雨露をしのげるようになり、1302年には、聖職者・貴族・有力市民の国会にあたる初めての三部会が開かれた。この伝統が500年続いて、ベルサイユで行われたときにフランス革命の発端となったのである。

千年、パリを見続けた

革命の時には攻撃され、彫刻、家具等が壊されたが、1793年、ロベスピエールが唱えた反宗教の宗教「理性宗教」の総本山になった。

しかし、老朽化も進んでおり、取り壊しの声も出た。

そんなとき、有力な政治家でもあるヴィクトール・ユゴーが「ノートルダム・ド・パリ」(邦題ノートルダムのせむし男)を発表した。宗教の場としてではなく、舞台としてノートルダムをつかい、聖なる場所を冒涜したという批判もあったが、彼の目的は遺産を守ることであった。かくして世論をバックに修復が行われ、現在に至った。ちなみに、「ノートルダム・ド・パリ」は20年前にはミュージカルにもなり大ヒットした。

第2次大戦のパリ解放の戦いでは広場を隔てた正面の県庁・警視庁がレジスタンスの本拠になり、ドイツ占領軍の攻撃をかいくぐって大聖堂に三色旗が掲げられた。解放直後の1944年8月26日、ドゴール将軍を先頭にシャンゼリゼから行進し、ノートルダムで勝利の讃美歌が歌われた。

「この地は何世紀にもわたって様々な争いをくぐってきた力強い場所なのです」と58歳の女性はパリジャン紙に語っているが、そのとおりである。

パリの欠かせない観光名所といえば、凱旋門、エッフェル塔、ノートルダムだが、初めの2つはフランス革命以降に作られたものだ。ノートルダムは千年の歴史を貫いて生き続け、良い事も悪い事もすべて見守っていた。

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