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「移民は敵ではない、ブラック労働に苦しむ日本人が手を繋ぐべき相手だ」

2019年4月18日(木)13時30分
小暮聡子(本誌記者)

――想像力についてだが、望月さんは著書の中で、移民をめぐる問題は「彼ら」の問題ではなく、「私たち」の問題であると語っている。現代は「国家や企業が一人ひとりの人間たちから撤退する」時代であり、「社会的な支えを与える責任から国家が自らを解放しようとしている」。そしてここで言う「一人ひとりの人間」とは、外国人だけでなく「この国に生きるすべての人々」のことだ、と。

移民の問題を考えるとき、想像力がとても重要だと思うのだが、どうやったら想像力を持てるのか。自分の問題として考えるには、どうしたらいいのだろう。

今の社会は、基本的には経済の論理で動いているというか、資本主義の世の中だ。自分で自分の身を助け、家族や身の回りの人の生活を自分で助けていく。そのために競争があり、「自分にはこういう価値があるのだ」と世の中に対して表明してお金をもらい、自分の身を守っていくということがベースになっている。

それをいつの間にか教えこまれるというか、学校教育でもそうかもしれないが、特に社会、つまり労働市場に出てからそう痛感しながらみんな生きていると思う。できるだけ人より上に行かないといけないし、それは単純に名誉欲だけではなくて、負けるわけにはいかない、負けたら死んでしまうというサバイバル的な精神性で生きている、生きざるを得ない部分があると思う。

外国人に限らず、日本人に対しても手を繋ぐ相手というよりはライバルとして見てしまうこともあるだろう。そういった中で、「政治」を考えるとか「社会」を考えるという、別の思考が常に重要になってくる。

それはつまり、横にいる経済の側面ではライバルかもしれない人たちと、実はもっと広い視野で見たら同じような利害を共有していて、手を繋いだら自分たちにとって共通の利益を作り出せるかもしれない、そういう相手として見ることだ。

この2つの思考を使い分けることはとても難しくて、どうしても2つ目の思考を放棄してしまいがちになる。ゲームのルール自体が自分たちにとってどんどん損になっているなかで、その損なゲームの中でなんとか勝ち残れればいいという思考になりやすい。

でも、そもそもこのゲームのルール自体にみんなで手を繋いで改変を加えるというか、もっとこうしたいと言っていくような思考が広まればいいなと思う。そっちのサバイバルの仕方もあるというか。ひとりで孤独にサバイバルする以外の、もうちょっと社会的に手を繋いでいく生き延び方もあるのだと。

そう思ったときには、やはり味方をどれだけ多くするかのほうが重要になってくる。そうすると、日本人も外国人も同じようにこれまで保障されてきたものが少しずつ削り落とされている仲間として見たほうがいいんじゃないかなと思う。この本では、日本の人にそのことを伝えたかった、というのはすごくある。敵じゃないんだ、と。

でもそこに、「敵なんだ」とくさびを打ってくる人はいる。いわゆる右派のポピュリズムとはそういうものだ。本当は両方とも国家や企業から放置され、撤退されている人たちなのに、「移民や外国人労働者のせいで自国の労働者の生活が悪化しているんだ」という形で互いの対立をあおるような言説は、いろいろなところで言われてきた。

それが政治的な支持の調達に役立つということがいろいろな形で証明されてしまったし、それで大統領になれてしまった人もいるし、イギリスのEU離脱を決めた国民投票もそうだった。

だが、そこにくさびを打たせない、そのストーリーを信じないぞということを日本で暮らす人たちが思っておいてくれたら、とは思っている。こういう言説は日本で大きく顕在化しているわけではないので、どれくらい喫緊の課題かというのはまた別の話で、僕もあおりたいわけではないのだが。

でも心の備えとしてはすごく大事だし、そもそも手を繋ぐ相手として見るべきだということを何度も確認していきたい。

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