最新記事

中東

危うし、トランプとサウジの「アラブ版NATO」構想 軍事大国エジプトが離脱

Is Trump's Anti-Iran Arab Coalition Falling Apart?

2019年4月12日(金)15時50分
ジェイソン・レモン

「アラブ版NATO」の面々?(2015年にサウジアラビアを訪問したトランプ。湾岸諸国の首脳たちと) Jonathan Ernst- REUTERS

<イランを封じ込めるため、という構想だったが、アメリカとサウジアラビアほどイランを敵対視する国ばかりではなかった>

エジプトが、「アラブ版NATO」から離脱したと報じられた。アラブ版NATOとは、中東で影響力を増すイランを押し戻すため、アメリカとサウジアラビアが先頭に立って推し進めてきた構想だ。

ロイターが4月10日に報じた記事によると、エジプトは4月8日にサウジアラビアの首都リヤドで開催された首脳会議デモ、アメリカ政府や他の参加国に対して、離脱の意向を伝えたという。アラブ版NATOと称される「中東戦略同盟(MESA)」は、2017年にサウジアラビアが提言し、アメリカのドナルド・トランプ大統領が構築を目指してきた。

エジプトは離脱理由として、構想の真剣さを疑問視したことや、MESAによってイランとの緊張が高まる可能性などを挙げた。エジプト政府はさらに、トランプが2020年大統領選で再選されなかった場合にはMESAが頓挫するか解体されるのではないかと懸念を抱いており、参加は無意味ではないかという結論に至ったようだ。

近い将来、消滅か?

アラブ世界で最大の軍事力を有するエジプトが離脱すれば、MESAは大きく後退するだろう。MESA構想には、エジプトとサウジアラビアのほか、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、バーレーン、カタール、オマーン、ヨルダンが参加している。しかしアナリストの多くは、MESAがうまくいく可能性、あるいは同地域で多大な影響力を持つ可能性はあまり高くなかったと話す。

政治メディア「ジオポリティクス・フューチャーズ」のグローバル・アナリスト、ザンダー・スナイダーは本誌に対し、「MESAの成功については、大きな疑問符が常につきまとっていた。参加各国の利害がバラバラだ」と語った。「理論上はイランの封じ込めを目的とした同盟だが、MESA参加国のなかには、イランへの投資のほうにはるかに大きな関心を持っているところがある」

エジプトは、サウジアラビアほどイランを恐れていないと、スナイダーは指摘する。サウジアラビアほど地理的にイランに近くないからだ。またエジプト政府は、湾岸諸国が外国で率いる戦争に引きずり込まれることを懸念しているという。サウジアラビアのイエメン内戦介入や湾岸諸国のシリア介入が、いずれもうまくいっていないためだ。エジプトが、「何も得るものがないのに国を疲弊させる戦争をいやがっているのは明らかだ」とスナイダーは述べた。

ワシントンに本拠を置く湾岸情勢研究所のサウジアラビア人学者で、同国政治情勢の専門家アリ・アル=アフメドは、「エジプトの離脱はMESA構想にとって大きな痛手だ」と言う。「ほかの参加国もそれに続き、アラブ版NATO構想は近い将来、消滅することになるだろう」

20190416cover-200.jpg

※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中