最新記事

人体

ヒトにも「地磁気を感じる能力」が備わっている可能性示す研究結果が出た

2019年3月20日(水)18時30分
松岡由希子

やはり、地磁気を感じる能力がヒトに備わっていそう......Veritasium-Youtube

<これまでさまざまな動物に地磁気の方向や強さ、場所を知覚する「磁覚」が備わっていることが確認されてきたが、ヒトにもその感覚が備わっていそうな可能性を示す研究結果が発表された>

方位磁針のN極がほぼ北を指すことからもわかるとおり、地球には、北極付近をS極、南極付近をN極とする地磁気が存在する。地磁気は、偏角、伏角、全磁力で決定されるもので、場所や時間によって異なり、たとえば、北半球の日本では、方位磁針のN極は、真北よりも西方向に偏り、水平よりも少し下を向く。

地磁気の方向や強さ、場所を知覚する「磁覚」は、これまで、ハチウミガメクジラウシなどの動物に備わっていることが確認されてきた。

そして、このほど、ヒトにもこの感覚が潜在的に存在している可能性を示す研究結果が明らかとなり、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感に次ぐ「第六感」として注目を集めている。

アルミパネルで覆った暗室に3軸のコイルを設置した実験室

米カリフォルニア工科大学と東京工業大学らの研究チームは、2019年3月18日、科学雑誌「イー・ニューロ」において「地磁気と同等の強度で方向が変化する人工的な磁気刺激をヒトに与えたところ、その方向変化を識別し、異なる反応を脳波が示した」との研究結果を発表した。

これによると、特定の磁気刺激に続いてアルファ波(8ヘルツから13ヘルツまでの脳波)の振幅が繰り返し低下したという。この現象はアルファ波の事象関連脱同期(外部刺激によってある周波数帯域の振動が減ること)とみられ、研究チームは「磁気刺激という外部刺激に脳が応答した証である」としている。

研究チームでは、カリフォルニア州パサデナのカリフォルニア工科大学で、壁や床、天井をアルミパネルで覆った暗室に3軸のコイルを設置した実験室をつくり、地元パサデナに在住する18歳から68歳までの男女34名を対象に、地磁気と同等の強度で方向のみが変化する磁気刺激を与えながら脳波を計測する実験を行った。

matuoka0320.jpg

その結果、N極が下向きに傾斜した磁気刺激に対してアルファ波の事象関連脱同期が認められた一方、上向きに傾斜した磁気刺激では認められなかった。被験者たちが日常的に生活する北半球ではN極が下向きに傾斜することから、研究チームは「この現象は一般的な物理的影響ではなく、その地域のヒトの生態に合わせた生物学的反応ではないか」とみている。

「私たち人間の祖先もかつて狩猟や採集を生活の基盤としていた......」

研究チームは、「動物界には高度な地磁気ナビゲーション能力を備えた種が存在し、私たち人間の祖先もかつて狩猟や採集を生活の基盤としていたことを鑑みると、私たちにもこの機能を担うものがいくらか受け継がれていても不思議ではない」と述べ、この研究結果について「ヒトの磁覚に関する研究をすすめるうえでロードマップのひとつになるだろう」と期待を寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、米雇用統計控え上値重

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中