最新記事

ポピュリズム

イタリア、ウクライナ、グアテマラ......お笑い芸人が政治を支配する日

Comedians Will Rule the World

2019年3月13日(水)17時30分
テジ・パリク

アルメニアの首都エレバンでも、昨年9月の市議選を経て人気コメディアンのハイク・マルチアンが市長に就任。当初は、市内の観光名所「エレブニ要塞」での4Dライトショーの実施を公約に掲げていた。

好感度の高さだけがコメディアンの強みではない。敵をこき下ろすジョークには笑いを取るだけでなく、肝心な論点から有権者の目をそらす効果もある。ソーシャルメディアの台頭で、この効果は一層高まった。選挙戦中の面白い発言がどんどん拡散され、有権者の関心は政策よりもそちらに集まってしまう。

しかもネット時代にはメディアも視聴者や読者の注目を引こうと必死で、政治ニュースがエンターテインメント的な性格を帯びつつある。そうなると、派手な候補のほうが断然有利だ。

その典型が、16年米大統領選のドナルド・トランプだろう。対抗馬に無遠慮に個人攻撃を加え、おバカなコメントを連発。メディアは日々その動向を伝え、「トランプ旋風」をあおる結果になった。

リスクには注意が必要

筋金入りのEU懐疑派で、ロンドン市長を務めた後、昨夏に辞任するまで外相の座にあったボリス・ジョンソンも、おちゃめな親しみやすい政治家として知られる。差別発言などが問題になっても、人気が衰えないのはそのおかげだろう。

もともと認知度が高く、ソーシャルメディアでの自己PRにもたけたコメディアンは、既成政治に不満を持つ人々の支持をつかみやすい。そうは言っても政治経験の少ない候補者に希望を託すのは、不合理にも見える投票行動だ。

だがそれも、行動経済学の観点からは「確実な損失」を避ける行動として説明できる。既成政治家が居座れば、現状が続くのは目に見えている。政界のアウトサイダーに賭けたら、少なくとも何らかの変化が起きるだろうと、有権者は考える。

ただし、政権運営には実務能力や知識や経験が求められる。アウトサイダーは選挙戦では有権者を大いに沸かせても、有能なリーダーになるとは限らない。

コメディアンに未来を託す危うさは、グアテマラを見れば分かる。モラレス大統領は1月、国連との合意で設置された汚職調査委員会の廃止を一方的に通告した。

政治に対する無関心や将来への不安が社会を覆っている今、コメディアンが政治に果たす役割は無視できない。一方で忘れてはならないのは、どんな形であれポピュリズムにはリスクが伴うこと。有権者が冷静な判断をするために、ファクトチェックの重要性は増すばかりだ。

そもそも有権者は、なぜ既成政治に愛想を尽かしたのか。政治エリートは根本原因を見つめ、コメディアンがどうやって聴衆を沸かせ、聴衆の心を捉えるか、じっくり研究することだ。

From Foreign Plicy Magazine

<本誌2019年03月12日号掲載>

※3月12日号(3月5日発売)は「韓国ファクトチェック」特集。文政権は反日で支持率を上げている/韓国は日本経済に依存している/韓国軍は弱い/リベラル政権が終われば反日も終わる/韓国人は日本が嫌い......。日韓関係悪化に伴い議論が噴出しているが、日本人の韓国認識は実は間違いだらけ。事態の打開には、データに基づいた「ファクトチェック」がまずは必要だ――。木村 幹・神戸大学大学院国際協力研究科教授が寄稿。

ニューズウィーク日本版 総力特集:ベネズエラ攻撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月20号(1月14日発売)は「総力特集:ベネズエラ攻撃」特集。深夜の精密攻撃で反撃を無力化しマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ大統領の本当の狙いは?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:自動運転車の開発競争、老舗メーカーとエヌ

ワールド

米、ガザ統治「平和評議会」のメンバー発表 ルビオ氏

ビジネス

米国株式市場=横ばい、週間では3指数とも下落 金融

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、ハセット氏のFRB議長起用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    イランの大規模デモ弾圧を可能にした中国の監視技術─…
  • 9
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 10
    122兆円の予算案の行方...なぜ高市首相は「積極財政…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 8
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 10
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中