最新記事

韓国社会

韓国の受験戦争、大ヒットドラマ「SKYキャッスル」でさらに過熱か

2019年2月7日(木)11時55分

人生を楽に

ここ数年の雇用情勢の悪化を背景に、韓国社会の競争は激しさを増すばかりだ。

韓国統計庁によると、2018年の新規雇用9万7000件は前年の3分の1以下で、2009年以降で最低となった。

「求人が減っていることを反映して、予備校では就職を念頭にした競争が過熱しているようだ」と、韓国労働研究院(KLI)エコノミスト、キム・チョンウ氏は言う。

「韓国社会に広く根付いている、大学を卒業しないと働けないという考え方が、この過剰な教育熱の根本的原因だ」

高校では、午前9時から午後5時までの授業に加えて、自習するため何時間も学校に居残る生徒が多いという。「学院(ハグォン)」と呼ばれる私設の塾で、週末や祝日も夜遅くまで授業を受け、一流の学校や大学への進学を目指す生徒もいる。

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、週60時間以上勉強していると答えた韓国学生は23%で、OECD加盟国の平均13%の倍近くになっている。

韓国では、教育機関向け支出が国内総生産(GDP)の5.8%と、OECD加盟国の中でも最高水準にある。また高等教育費用の半分近くを家計がまかなっているが、OECD加盟国の平均は22%にとどまっている。

また、4分の3の韓国学生が「大学を卒業するつもりだ」と回答しており、これもOECD平均の44%を大きく上回っている。

韓国教育部(省)は先月、大学に入ることだけが成功への道だとの考え方が、過剰な競争や民間教育産業の過熱を生んでいるとして、高卒者の採用を促進する計画を発表した。

同部では2022年までに専門高校卒業者の就職率を6割にし、職に就けない大学生を減らすと同時に、大卒者が敬遠する中小企業の人手不足解消を狙っている。

学校でのプレッシャーや、将来の就職への不安が、韓国における若者の高い自殺率の主要な原因だと考えられている。

統計庁によると、10─19歳の子どもの死因で、最大の31%が自殺だった。

社会発展研究所の調査によると、特に成績を心配している韓国高校生の40%が、自殺衝動を感じたことがあるという。また、韓国の子どもとティーンエイジャーの幸福度はOECD加盟国で最低水準だ。

それでも、厳しい韓国経済でより良い生活を求める多くの人たちにとって、一流大学進学は最善の賭けであり続けている。

「SKYキャッスルは極端かもしれないが、それでもトップ大学に入る価値は十分にある」と、ドラマに触発されて、今年受験する娘のために大学コンサルタントを雇ったクウォン・スンオクさんは語る。「そうすれば、機会が広がり良い就職ができる。人生は間違いなく楽になる」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

Joori Roh

[ソウル 3日]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


ドラマを放送していたJTBCのニュース番組も「SKYキャッスル」と現実の教育現場を検証した JTBC / YouTube

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価目標の実現「着実に近づいている」、賃金上昇と価

ワールド

拙速な財政再建はかえって財政の持続可能性損なう=高

ビジネス

トヨタの11月世界販売2.2%減、11カ月ぶり前年

ビジネス

予算案規模、名目GDP比ほぼ変化なし 公債依存度低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中