最新記事

アメリカ政治

トランプの一般教書演説、口先で協調訴えつつアメリカの分断深めた?

2019年2月8日(金)09時47分

トランプ米大統領(写真中央)は一般教書演説で超党派の結束を呼び掛けた。米議会で撮影(2019年 ロイター/Leah Millis)

トランプ米大統領は5日の一般教書演説で超党派の結束を呼び掛けた。しかしトランプ氏が思い描く「歩み寄り」とは、同氏の政策課題を野党・民主党が支持し、ロシア疑惑の捜査を取りやめることだとはっきりと分かる内容だった。

結局トランプ氏が示したのは、移民への厳しい姿勢や国境警備強化、多国間貿易協定への疑念、「米国第一」の外交政策といったおなじみのテーマであり、これらが2020年の大統領選に向けて同氏のパワーになっていくだろう。

そして今回は、トランプ氏の言葉と政治的現実のかい離がかつてないほど大きくなった。なぜなら同氏が政策の実現を要請した議会は、昨年秋の中間選挙で民主党が下院を制し、下院議長の席にナンシー・ペロシ氏が座るとともに、民主党議員が一定の力を持つようになったからだ。

ただトランプ氏は、エイズや小児がん対策などの分野で気高い与野党協力の目標を掲げながらも、最も強く同氏を支持する人々に向けて彼らが一番大事だと考えている問題では妥協するつもりはないというシグナルを送った。

長年共和党のストラテジストを務めるロン・ボンジャン氏は「一般教書演説で与野党が一体化する場面は多く見られたものの、トランプ氏はロシア疑惑捜査や移民、中絶といった国論を二分した問題で支持層にアピールすることに時間を費やした。もはや与野党は何らかの大きな妥協を実現できないほど亀裂が深まっているので、演説を受けて状況は何も変わっていない」と話した。

確かにトランプ氏は、1カ月余りにわたる政府機関の一部閉鎖が終わったばかりなのに、メキシコ国境沿いの壁建設要求を撤回する方針はまったく見せなかった。実際、演説の多くの部分はこの壁がいかに米国民のためになるかの説明に割かれ、中間選挙時と同じように「中米からの移民の『猛攻』を受けている」「国境は『無法状態』だ」「不法移民に『数えきれない』米国民が殺害されている」などと訴えた。

一方で民主党側は、一部女性議員がトランプ氏の差別的言動に抗議する意味で白い服を着て議会に登場し、存在感を見せつけた。

口先と逆の本心

またトランプ氏は演説の中で、ニューヨークとバージニアで中絶の権利を認める法律が存在すること批判し、米国の文化的な対立ムードを蒸し返しながら、キリスト教信仰心の強い一部有権者を引き付けようとしている。

民主党の議会スタッフ経験が長いダウ・ソーネル氏は「今回の演説と以前のトランプ氏の集会で聞かれた言葉にほとんど違いはなかった。多くの人にとって、この演説はトランプ氏が国境の壁や移民の悪者化にこだわり続け、議会によるロシア疑惑捜査を異常なほど攻撃していることを思い起こさせるだろう」と冷ややかだ。

それでも共和党のルビオ上院議員の大統領選出馬時に最側近役だったアレックス・コナント氏は、トランプ氏が処方薬価格などの問題で民主党との協力に前向きな態度を示すことに成功したと指摘。「この姿勢は数週間の苦難を経た後でトランプ氏に必要だったリセットだった」と述べた。トランプ氏は関心の高い問題の1つを最も好ましいやり方で最大の政治課題に仕立てたのだという。

トランプ氏は1年前にも民主党に対して相互理解と協調を申し出たが、中間選挙やブレット・カバノー最高裁判事指名問題、そして先の政府機関閉鎖などにより、対決姿勢を解消することができなかった。

さらにトランプ氏はこの間、常にツイッターを通じて民主党を「非協力的」「妨害主義者」「愛国心がない」などとこきおろしてきた。

バンダービルト大学で世論形成を専門とするジョン・イェール氏は「トランプ氏が結束を望んでいる理由は見当たらない。彼は分裂に乗じてのし上がってきたのだ。口では野党の協力を求めているとはいえ、過去の振る舞いからすると、逆になってほしいと思っていることが分かる」と語った。

(James Oliphant、John Whitesides記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 岐路に立つアメリカ経済
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月3日号(5月27日発売)は「岐路に立つアメリカ経済」特集。関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中