最新記事

テロ

フィリピン、自爆テロは宗教間抗争へ? 教会自爆テロの犯行グループ5人逮捕、14人追跡中

2019年2月7日(木)11時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

爆弾テロは宗教対立を煽るもの

カトリック教会を対象にした爆弾テロという今回の事件は当初、1月21日に実施されたフィリピン南部にイスラム自治政府を創設する「バンサモロ基本法」に基づく、地方自治体の帰属を問う住民投票との関係が指摘された。

その後「アブサヤフ」が深く犯行に関わっていたことや、「アブサヤフ」も関係するとされる中東のテロ組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出していることなどから「住民投票とは直接関係ないテロ事件」との見方も強まっている。

アニョ内務・地方自治相は「GMAニュース」に対して「今回の犯行はイスラム教とキリスト教という宗教間抗争に火をつけるものである」との見方を示している。

1月30日深夜にサンボアンガでイスラム教の宗教施設「モスク」に手榴弾が投げ込まれて2人が死亡した事件は、キリスト教側によるイスラム教施設への報復との見方で一致しているが、犯行動機や容疑者は判然としておらず、報復と断定するのは尚早との意見もでている。

スールー州などの治安維持を担当するフィリピン陸軍101旅団のアリエル・ファリシダリオ准将は地元テレビ局に対して「今回の自爆テロ事件は治安上の過失で起きたものではない。自爆テロなどは100%阻止できるものではない」との見方を示す一方で、「ホロ市内にまだ別の爆弾があるとの情報もあり、軍や治安当局は依然としてホロ市内で厳戒態勢を続けている」として新たなテロへの警戒を続けていることを明らかにした。

ドゥテルテ政権はイスラム教徒との共存共栄、イスラム教過激組織との和平構築を目指して「バンサモロ基本法」に基づく住民投票の実施にようやく今回漕ぎつけた。

しかし爆弾テロで「アブサヤフ」による宗教紛争が発火したことで、新たな社会不安と南部地域での治安悪化が今後さらに懸念される事態になり、厳しい政権運営と治安対策に追い込まれたといえる。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、ウクライナ支援法案に署名 数時間以内に

ビジネス

米テスラ、従業員の解雇費用に3億5000万ドル超計

ワールド

中国の産業スパイ活動に警戒すべき、独情報機関が国内

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中