最新記事

世界はこう見る:日韓不信

偶然ではない、日韓は「構造的不仲」の時代へ

THE UNCOMFORTABLE RELATIONSHIP

2019年1月22日(火)06時45分
長岡義博(本誌編集長)

2004年11月25日、成田空港で「ヨン様」の来日を待つ日本人ファン JUNKO KIMURA/GETTY IMAGES

<100年の歴史を振り返れば分かる。日本と韓国の間で争いが絶えないのは、地政学的変化の反映でもあった>

※2019年1月29日号(1月22日発売)は「世界はこう見る:日韓不信」特集。徴用工、慰安婦、旭日旗、レーダー照射......。「互いを利してこそ日韓の国力は強まる」という元CIA諜報員の提言から、両国をよく知る在日韓国人の政治学者による分析、韓国人専門家がインタビューで語った問題解決の糸口、対立悪化に対する中国の本音まで、果てしなく争う日韓関係への「処方箋」を探る。
(この記事は本誌「世界はこう見る:日韓不信」特集より)

◇ ◇ ◇

1991年に日韓で従軍慰安婦問題が噴出したのは偶然ではない。

1945年の第二次大戦終結後、冷戦で分断された朝鮮半島では南でも北でも軍事独裁体制が続いた。韓国では北朝鮮に備えることが、戦後同じ資本主義陣営になった「日帝」への恨みに優先され、その結果、存在していたはずの慰安婦問題は封印された。植民地支配に対する日本の賠償問題が1965年に日韓請求権協定によって「解決」されたのも、同じ理由からだ。

元慰安婦が韓国で名乗り出て日韓で社会問題化した1991年は、ソ連崩壊の年である。北の後ろ盾だったソ連による地政学的圧力の減少が、韓国の日本に対する敵意を解き放った側面は否定できない。

戦後50年に至らず、まだまだ戦争や植民地支配の記憶が生々しかった日本では「謝罪」の気分が支配的だったから、1993年に日本政府が慰安婦問題について事実関係に曖昧さを残しながら、河野談話で「取りあえず」強制性を認め謝罪したのは必然の結果だった。この後、慰安婦問題がくすぶりつつも、2002年のサッカー・ワールドカップ共催や日本における韓流ブームが象徴する「雪解け」「和解」の状態が続いたのは、この時の謝罪の効果だ。しかし、それも長くは続かなかった。

韓国で反日感情が再噴出するのは、2011年に憲法裁判所が「慰安婦問題解決に努力していない」と自国政府を叱責する違憲判決を下したことが直接のきっかけだ。「加害者と被害者の関係は1000年たっても変わらない」(朴槿恵〔パク・クネ〕元大統領)という韓国人の意識と、戦後70年を超えて戦争や植民地支配の記憶が薄れつつある日本人の意識の乖離が相互不信の根底にはある。

magSR190121-chart1b.png

本誌21ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中