最新記事

中国

米中月面基地競争のゆくえは? 中国、月裏側で植物発芽成功

2019年1月16日(水)13時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

これに対して呉偉仁は、「科学者同士として、『いいよ』と回答した」というのだ。

CCTVの記者は、中国が心血を注いできたものをアメリカに使わせるのかと、気色ばんだ顔で質問をぶつけた。米中の間には敵対的で激しい競争が展開されていることを念頭に置いたのか、「相手に機密技術を言わないという選択もあるのでは?」と迫った。

すると呉偉仁は「たしかに国と国の間のことを考えると、相手に言わない協力しないという選択もある。しかし科学者同士は国際的に協力し交流するのは当たり前だ」と答えている。

膨大な予算と年月を費やして、ようやくラグランジュ「L2」点で引力のバランスを取りながら定点的に宇宙空間に静止して浮いている中継衛星「鵲橋号」を、ライバル国であるアメリカの科学者に貸すというのである。科学者と言ってもNASAが動かなければなるまいに。

「L2」点を突き当てて、そこに静止して浮かばせ、アンテナの役割をさせ続けるなどということは至難の業だ。非常に高度な技術が要求される。それに成功した千載一遇のチャンスだからこそ、多くの国に享受してもらう「大国の姿勢」が必要だと呉偉仁は言う。

えっ――?!

耳を疑った。

中国に「大国の姿勢」などと言われると、何とも心地いいものではないが、それにしても、これだけ激しい米中貿易摩擦がある中、月面基地をめぐっても米中が激しい競争を展開すると予測されるが、それがこのような形で協力するということなどがあり得るのだろうか?

もし「ある」とすれば、「習近平とトランプの闘い」は、どうなるのか?

中国共産党の報道局であるCCTVで放送したのだから、この番組も中共中央の許可が下りていなければならないが、成り行きがどうも気になる。

アメリカを排除することなく、あるいは「従えて」、国際社会のトップリーダーになろうというのが、中国の最終的な覇権の形だというのだろうか?

たしかに「中共中央・国務院・中央軍事委員会の祝賀の辞」の中には、習近平がよく使う(偽善的で戦略的な)「人類運命共同体」という言葉がある。しかしそうであったとしても、言論弾圧をする国が宇宙支配のトップに立って人類をリードしていくなどということになったら、どれだけ恐ろしい未来が待っていることか。

それを考えたら、トランプには「壁」の問題などで政府機能を停止させてほしくないし、また日本も「中国への協力を強化する」などと、恐るべき未来を予測しない安易な発言をしている場合ではないだろう。

中国の宇宙開発は着々と進んでいる。この現実を直視し、これが何を意味するかを深慮すべき時が来ている。


endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルーブル美術館強盗、仏国内で批判 政府が警備巡り緊

ビジネス

米韓の通貨スワップ協議せず、貿易合意に不適切=韓国

ワールド

自民と維新、連立政権樹立で正式合意 あす「高市首相

ワールド

プーチン氏のハンガリー訪問、好ましくない=EU外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中