最新記事

貿易戦争

貿易戦争が破壊するサプライチェーン 中国脱出組が東南アジア争奪戦へ

2018年12月3日(月)18時00分

11月29日、中国に対する米関税の対象範囲が拡大し、関税率もさらに高くなる可能性などから、企業の間で新たな生産拠点とサプライヤーの争奪戦が激化している。ベトナム・ハノイ近郊の衣料品工場で2015年10月撮影(2018年 ロイター/Nguyen Huy Kham)

フレッド・ペロッタさん(33)は、流行のリュックサックを製造する自社工場に部品を提供する中国の供給網を築くのに4年かかった。だが、米国が中国製品の約半分に関税をかけると発表するとすぐに、他国のサプライヤーを探し始めたという。

たとえトランプ米大統領と中国の習近平国家主席が、今週末に行われる20カ国・地域(G20)首脳会議で過熱する貿易戦争に終止符を打ったとしても、他のサプライヤーへの移行は今ではだいぶ進んでいるため後戻りはできないと、ペロッタさんは言う。

2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して以降で最大の変化が、グローバルサプライチェーンに起きていると専門家は指摘する。ペロッタさんの会社「トルトゥガ」もまさにその渦中にある。

こうした変化は、中国の近隣国に新たな工場を確保し、世界の製造業の5分の1の拠点である中国の外に供給網を築こうとする激しい競争を生んでいる。

「みな神経質になっていて、われ先にと奪い合っている」とペロッタさんは米カリフォルニア州オークランドから電話でこう述べた。ペロッタさんは最近、ベトナムの新たなサプライヤー候補からサンプルを初めて受け取ったという。

「長期的に、すべてをシフトすることになるだろう」

中国に対する米関税の対象範囲が拡大し、関税率もさらに高くなる可能性や、近隣の新興国が「先着順」でしか新規ビジネスを受け入れられないのではないかとの恐れから、新たな生産拠点とサプライヤーの争奪戦は激化している。

ベトナムとタイが望ましい拠点候補として浮上しているが、行政手続きや熟練労働者の不足、限定的なインフラなど受け入れ能力に制約がある。

熱狂

ロイターはさまざまな業界の経営者や通商専門の弁護士、ロビー団体から10人以上に取材。その結果、この数カ月で、アジア全土にわたり活動が過熱していることが明らかとなった。経営者は製品サンプルを取り寄せたり、工業団地を視察したり、弁護士を雇ったり当局者と面会したりしている。

家具メーカーの敏華控股は6月、ベトナムの工場を6800万ドル(約77億円)で購入した。2019年末までに同社の生産規模を現在の約3倍となる37万3000平方メートルに拡大する計画だとしている。

「工場獲得は関税によるリスクを軽減するためだ」と同社は声明で語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、軍事輸送の新システム提案へ 国境越えた機動

ワールド

独中副首相が会談、通商関係強化で一致 貿易摩擦解消

ビジネス

FRB追加利下げは慎重に、金利「中立水準」に近づく

ビジネス

モルガンS、米株に強気予想 26年末のS&P500
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中