最新記事

フランス

マクロン主義は、それでも生き残る

Macron Can Survive France’s Anger

2018年12月13日(木)17時20分
ジェームズ・トラウブ(ジャーナリスト)

結局、マクロンの成績表は来年5月の欧州議会選挙で示されることになるだろう。最新の大半の世論調査では、国民連合への支持がわずかながらREMを上回っている。

選挙に負ければ、マクロンには大打撃になる。経済的な痛みを伴う改革の成果が出る前に、政治的な最後通告を突き付けられるかもしれない。

マクロンは強い指導者ではあるが、政治家として国民に寄り添う姿勢に欠けているようだ。サルコジやフランソワ・オランド前大統領と違って、彼は自説に固執してきた。

マクロンには、自身の改革を国民に受け入れてもらおうとする才覚が欠けているようだ。あるとき造園の仕事を求職中の若者に対し、「やる気さえあればホテルやカフェ、レストラン、建設現場でもどこでも働く場があるはずだ。そこら中で人手を探している」と発言。カフェやレストランが多いパリのモンパルナス地区へ行くよう勧めて、こう続けた。「私なら、あの通りを渡れば、きっと君に仕事を見つけてあげられる」

この発言は、仕事をあてがいさえすればいいという高圧的な姿勢や、一般人とは懸け離れた感覚が表れているとして物議を醸した。

自身の政策にこだわり続けるマクロンの姿勢に批判が集まる。だがREMのドミニク・ダビド議員は大統領が変えるべきは姿勢ではなく政策だと指摘する。

最大の敵は自分自身?

マクロンが今後邁進するのは目下の試練への対応ではなく、国会議員が地方政府の公職を兼務することを禁じる持論の憲法改正だろう。デモで新しいマクロンが誕生するとは期待しないほうがいい。

マクロンは「過激な自由主義者」とも言われるが、それは批判派の見方でしかない。ビル・クリントン元米大統領やトニー・ブレア元英首相ら90年代の「第三の道」の指導者のように、マクロンは市場原理を信じ、国家の歳出は効率を重視するべきだと考える。一方で、再生可能エネルギーへの転換や基礎研究、職業訓練と再訓練への投資などを提案し、一部は実行に移した。

だが黄色いベスト運動の参加者の言葉が象徴するように、温暖化を懸念するエリートは「世界の終わりについては話し合う」が、庶民が話し合っているのは「月末のやり繰り」だ。

たとえマクロンが人間味を増したにせよ、その先には苦痛が待っている。燃料税は二酸化炭素消費量を減らす対策としては必要な苦痛を伴う措置だが、他国の指導者は導入を避けてきた。

マクロンは、多くの有権者が弱いEUを求めるなかで、強いEUを模索している。ナショナリズムが台頭するなかで、多国間主義を断固として支持し、反移民運動を認めようとしない。

だからこそ、マクロンの今後を気に掛ける必要がある。フランスの「主権」や国家の栄誉に対するマクロン流のこだわりによって、リベラルな普遍主義と保守的なナショナリズムのどちらでもない中道が示される可能性があるからだ。

マクロン自身、CNNのインタビューで、イノベーションと人的資本への投資と、フランスの主権へのこだわりこそが「ナショナリストに対抗する最良の答え」になると語っている。

マクロンは主要国指導者の中で唯一、勇気ある政策を実行しようとしている。彼にとって自分自身が最大の敵となる可能性もあるが、私たちにできることは、マクロンの実験を注視し、最善を祈ることだけだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年12月18日号掲載>


※12月18日号(12月11日発売)は「間違いだらけのAI論」特集。AI信奉者が陥るソロー・パラドックスの罠とは何か。私たちは過大評価と盲信で人工知能の「爆発点」を見失っていないか。「期待」と「現実」の間にミスマッチはないか。来るべきAI格差社会を生き残るための知恵をレポートする。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中