最新記事

地球温暖化

解けた氷河から大量のメタンガスが放出される

A Giant Methane Incubator

2018年12月7日(金)17時30分
ハナ・オズボーン(サイエンス担当)

アイスランドの氷河の下では火山ガスと水の流れによって大量のメタンが発生し、大気中に放出されている可能性がある Snorri Gunnarsson/iStock.

<氷の封印は解けてしまったのか――火山と氷河による相互作用が加速して危険なメタンが大量に大気中へ>

カトラ火山はアイスランド最大にして最も危険な火山。そのカトラ火山を覆う巨大氷河の一部であるソウルヘイマヨークトル氷河から、強力な温暖化ガスのメタンが毎日最大41トン放出されている──。そんな驚きの研究結果が、11月20日付でオンライン学術誌サイエンティフィック・リポーツに発表された。

メタンの温室効果は二酸化炭素(CO2)よりはるかに強い。北極地方では永久凍土に閉じ込められているが、温暖化の影響で凍土が解けてメタンが放出され、温暖化を一段と加速させる恐れがある。

未知のメタン発生源を突き止めることは、気候変動の予測に不可欠だ。今回発見されたような事例がほかにも存在するなら、人知れず大量のメタンが放出されていることになる。

氷河からこれほど大量のメタン放出が確認されたのは初めてだが、「同様に氷河と火山が互いに作用を及ぼしている場所でもメタンが放出されている可能性は十分ある」と、研究を率いる英ランカスター大学のピーター・ウィンは言う。「南極大陸とグリーンランドの氷床の下で広範囲の地熱活動を示す証拠が増えており、大量のメタンが発生している可能性がある」

研究チームによれば、氷河から解け出した水のメタン濃度は、付近の川や堆積物より高い。また、氷河底面の微生物がメタンの発生源であることも判明した。

メタンは通常、酸素と反応してCO2を発生させるが、ソウルヘイマヨークトルでは解けた水が氷河底面で火山ガスに触れる。火山ガスは水中の酸素濃度を低下させるため、発生したメタンはCO2に変わらず、水に溶けて氷河の外に運ばれる。つまり、火山は微生物が繁殖してメタンを水中に放出するのに必要な環境を提供する、巨大な「メタン培養器」なのだ。

研究チームは、グリーンランドと南極大陸でも同様の研究を実施したい構えだ。「地熱システムが水の流れと結び付いていれば、今回の観測結果をはるかに上回る規模のメタンが放出されている可能性がある」

だとしたら憂慮すべき事態だ。今のペースで温暖化が続けば「より多くの水が解け出して氷河の底面に触れ、氷の下の火山活動と地熱活動の結び付きが強まりかねない」と、ウィンは言う。「氷が薄くなって氷の下の火山・地熱システムへの圧力が減り、噴火活動と熱の流れが増す可能性もある。そうなれば氷河底面でのメタン生成が加速するはずだ」

<本誌2018年12月11日号掲載>


※12月11日号(12月4日発売)は「移民の歌」特集。日本はさらなる外国人労働者を受け入れるべきか? 受け入れ拡大をめぐって国会が紛糾するなか、日本の移民事情について取材を続け発信してきた望月優大氏がルポを寄稿。永住者、失踪者、労働者――今ここに確かに存在する「移民」たちのリアルを追った。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中