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邦人4人に禁固刑判決のインドネシア 金採掘場を視察だけで実刑の特殊事情とは?

2018年12月16日(日)19時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)


パプアには露天掘りの小さなものから巨大な工場のようなものまで多くの金採掘現場がある KOMPAS TV / YouTube

世界最大級の金鉱山を抱えるパプア州

インドネシアは豊かな天然資源国でアチェ州は天然ガスと石油、カリマンタン島は石炭、パプア州は銅そして金の産出地として知られている。2017年の世界の金産出量は世界で第7位を誇り、東南アジアでは有数の金産出国である。

1988年に発見され、1990年から採掘が本格的に始まったグラスベルグ鉱山は金の露天堀の鉱山としては世界最大級でその埋蔵量は世界第2位といわれている。同鉱山は銅も産出しており、鉱山運営会社の米フリーポート・マクモラン社とインドネシア政府の間で所有権に関する合意(インドネシア側が所有権の過半数51%を所有する)が9月に署名したばかりである。

背景にはジョコ・ウィドド政権によるインドネシア国内の鉱物資源に対する管理強化を目指した外資系鉱山会社への持ち分売却政策がある。

そうした状況の中でパプア州では豊かな金資源を求めて近年は外国人や地元の先住民族らによる違法な金採掘が横行しているとう。

このため現地警察や入管当局は違法採掘の取り締まりと同時に労働者として違法に働く外国人の摘発を強めているところだった。

パプア州の特殊事情への認識不足か

インドネシアでは外国人あるいは外国企業への抜き打ち税務調査、労働許可検査が度々行われている。特に武装組織がいまだに活動しているパプア州は治安当局も外国人には特に厳しく目を光らせている。

2018年2月には2017年から続くパプア州の子供の栄養失調を取材していた英BBCの記者ら3人がツイッターにアップした写真とコメントが「事実に反し、インドネシア人を侮辱した」として現地国軍が反発、警察の事情聴取を受けた後、同州から強制退去させられる事件も起きている。

このようなパプア州の特別な環境、さらに天然資源である「金」の採掘現場という機微な場所を訪れて身柄を拘束され、実刑判決を受けた4人の日本人。その行動はどんなに「就労はしていない」と入管当局に反論しても不用意、認識不足との指摘は免れないといえそうだ。

現場を訪れた際の車の運転手、案内者または通訳などがいたとしたらそうした人たち、さらに滞在していたホテル関係者などいずれかの「通報者」ないし「内通者」が4人の日本人の存在、行動を当局に教えた可能性はある。

ひょっとしたらホテルから現場まで尾行ないし監視されていたことも完全に排除できないだろう。それがインドネシアであり、パプア州が置かれた特殊な現実であるのだ。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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