最新記事

フィリピン

殺りくの号砲響かせた「バランギガの鐘」 117年ぶりに米国からフィリピンに返還

2018年12月12日(水)19時42分
大塚智彦(PanAsiaNews)

殺りくの号砲響かせた「バランギガの鐘」が117年ぶりに帰国した Erik De Castro-REUTERS

<かつて敵味方に分かれて血みどろの闘いをした米国とフィリピン。当時の「戦利品」が里帰りしたのは政治的な配慮があった>

米国が1901年にフィリピンでの米比戦争の際に「戦利品」として持ち去った「バランギガの鐘」と呼ばれるキリスト教会の3つの鐘が12月11日、117年ぶりに故郷フィリピンに返還された。

国の歴史的な遺産であると返還を長年望んできたフィリピンでは、この鐘返還のニュースは大きく伝えられ、国民は「故郷に戻った鐘」を歓迎した。

米ワイオミング州内のワレン空軍基地に保管されていた2つと、韓国の米軍基地にあった1つの計3つの鐘は、米軍のC130輸送機で11日にマニラのビラール空軍基地に到着した。

多くの報道陣が待ち構える中、輸送機から梱包されたまま卸された鐘は、米比両軍の兵士らによって梱包が解かれ、クレーンで吊り上げられてその姿を現した。その瞬間、周囲の関係者からは大きな拍手が起きた。

その後3つの鐘は横一列に並べられ、その前で米比両政府、両軍関係者による返還セレモニーが行われた。

米国防省関係者やフィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防長官などが出席して行われた返還式典ではスン・キム在フィリピン米大使が「この鐘は自由のために闘った勇敢なフィリピン人たちを想起させるものである。両国は第2次世界大戦や朝鮮戦争をともに戦った関係である。その関係が今日の鐘の返還に反映されている。実に長い時間と長い道のりがかかったが、鐘は今ようやく故郷にもどった。この鐘の返還は米比両国のさらなる友好関係と固く結ばれた絆の象徴である」と述べた。

キム大使とロレンザーナ国防相は両国の国旗が飾られたデーブルに向かい合わせで座り、鐘返還に関する書類に署名し、鐘のフィリピンへの返還が正式なものとなった。

虐殺の引き金となった歴史的な鐘

19世紀末、スペインに代わってフィリピンを支配しようとした米軍は、米比戦争(1899~1902)でフィリピンの武装組織の掃討に手を焼いていた。1901年9月28日、フィリピン中部サマール島バランギガで行軍中の部隊がフィリピン人組織に待ち伏せ攻撃を受け、米兵48人が殺される事件が起きた。

これに対し、当時の米司令官はバランギガを中心とするサマール地方で「報復」攻撃と10歳以上の男子の殺害を命じ、その被害者は数千人とも数万人ともいわれる虐殺が行われた。「10歳以上の男子」が殺害の対象になったのは、ライフル銃を使える年齢ということで決められたという。

この虐殺事件の発端となったフィリピン側の米軍奇襲攻撃で、合図として一斉に打ち鳴らされたのが今回返還された教会の鐘で、通称「バランギガの鐘」といわれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPEC、3月石油生産がコロナ禍以来の低水準 海峡

ビジネス

米ナイキ、12─2月決算は予想上回る 業績回復には

ワールド

トランプ氏、ロサンゼルスに「強硬姿勢」 サッカーW

ワールド

米税関当局、違法関税還付システムの大半完成 還付に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中