最新記事

遺物

「モアイ像返して」イースター島知事が涙で訴え

2018年11月30日(金)14時30分
松丸さとみ

大英博物館にモアイ像の返還を求める Peter Nicholls-REUTERS

<1868年に英国海軍がイースター島から持ち出したモアイ像の返還を求めて、イースター島の代表団が大英博物館を訪れ、涙ながらに訴えた>

「失われた友」の返還求めはるばる英国へ

南太平洋に浮かぶチリ領イースター島の代表団はこのほど、英国のロンドンにある大英博物館を訪れ、モアイ像を返して欲しいと涙ながらに訴えた。代表団は、チリのフェリペ・ワード国有財産相が率いるイースター島先住民たちの一行で、大英博物館にモアイ像の返還を求めるためにイースター島からはるはる英国を訪れていた。

オーストラリア放送協会(ABC)によると、イースター島のタリタ・アラルコン・ラプ知事は、「私たちは単なる体。英国人たちが私たちの魂を持っている」と述べ、モアイ像がイースター島の先住民にとっていかに大切かを涙ながらに訴えた。また、「彼(モアイ像)が帰ってこられるように私たちにチャンスを与えて欲しい」と加えた。

ガーディアン紙によると、イースター島の住民はモアイが部族同士の戦いを終わらせ、1000年にわたり島に平和をもたらしてきたと考えている。また、モアイ像の1つ1つがそれぞれ、部族の指導者や神格化された祖先を表していると考えられているという。

大英博物館に展示されているモアイ像は、現地の人たちの言葉で「失われた友」または「盗まれた友」を意味する「ホアハカナナイア」と呼ばれている、高さ約2.4メートル、玄武岩でできた像だ。1000〜1200年に作られたものとされている。また、これより小さめ(1.56メートル)の「ハヴァ」と呼ばれるものも大英博物館が所有している。

この2体のモアイ像が大英博物館に展示されるようになった経緯は、1868年にさかのぼる。英国海軍がイースター島へ遠征した際に、海軍本部委員が現地の人の許可なくホアハカナナイアとハヴァを持ち出し、当時英国の元首だったビクトリア女王に献上。翌年、ビクトリア女王が大英博物館に寄付したのだ。

大英博物館の所蔵品をめぐる返還要求は他にも

今回、大英博物館がイースター島の代表団とモアイ像について話し合うのは初めてだった。BBCによると、イースター島側は、モアイ像を返してもらう代わりに、イースター島先住民の彫刻家ベネディクト・トゥキさんの手によるレプリカを無料で提供すると申し出ている。トゥキさんは、「(レプリカがホアハカナナイアと)同じ先祖の魂を宿すことは恐らくないと思うが、外見は全く同じに見えるはず」と話し、ホアハカナナイアが「私にとっては、どんな大金よりももっとずっと大切なもの。先祖たちがこの島に戻って来るのを見届けるまで、命ある限り戦う」と話したという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半へ上昇、上値追いは限定

ビジネス

中国、25年の鉱工業生産を5.9%増と予想=国営テ

ワールド

中国、次期5カ年計画で銅・アルミナの生産能力抑制へ

ワールド

ミャンマー、総選挙第3段階は来年1月25日 国営メ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中