最新記事

米中関係

米中対立における中国の狡さの一考察

2018年11月24日(土)19時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

11月20日、フィリピンを訪問した中国の習近平国家主席 Erik De Castro-REUTERS

世界第二の経済大国になり巨額のチャイナ・マネーで他国の歓心を買い、先進欧米企業を買収して技術を丸呑みしながら、自国の貧困層を救わず自国を発展途上国と位置付けてWTOの優遇策を受けている狡さが、まず一つある。

自国を途上国と主張する中国

中国の狡さに関しては枚挙にいとまがないが、トランプ大統領が指摘している狡さの一つとして、中国の途上国位置づけがある。WTOに加盟していても、途上国であるならば、貿易自由化の義務などを緩和あるいは免除する「特別かつ異なる待遇(Special and Differential Treatment)」(S&D)という恩恵がある。世界第二の経済大国になっておきながら、中国は一人当たりのGDPが低いとして、自国をあくまでも発展途上国だと主張し、保護主義的な通商政策を維持している。

中国は社会主義国家と自称する一方では、どの国よりも貧富の格差が激しい。

その国の貧富の格差を示すジニ係数は、中国当局の発表で0.467(2017年)。

ジニ係数とは所得不平等などの度合いを表す指標で、0から1までの数値で算出される。0.4以上なら社会的不安が起き、0.5以上なら暴動などが起き得るとされている。これまで中国の民間団体や大学教授などが調査した結果では0.6を超える場合もある。

11月22日のコラム<米中対立は「新冷戦」ではない>にも書いたように、中国は社会主義国家と自称しながら、内実、社会のどこにも社会主義的現象はなく、世界でも稀なほど貧富の格差が大きな国だ。社会主義国家ならどの国よりも「収入的に平等」でなければならないはずだが、どの国よりも不平等で、貧困層を救うことに国家予算を注いでいない。

それでいながら巨額のチャイナ・マネーを他の発展途上国に注ぎ込み、チャイナ・マネーによってその国の歓心を買い、世界制覇を成し遂げようとしているのだから、性質(たち)が悪い。

狡いのだ。

トランプが怒るのも当然で、中国にはトランプ大統領のやり方を保護主義などと非難する資格はないのである。

筆者が「新冷戦ではない」と主張したのも、その皮肉を込めたつもりだが、必ずしも十分に表現できなかったように思うので、改めてご説明する次第だ。

先進諸国の企業を丸呑み

トランプ大統領は、中国がアメリカ企業に投資して、その企業の技術を盗んだり、あるいは買収してしまって丸ごとアメリカ企業の技術を中国企業のものにしてしまっていることを非難しているが、その一つの例を見てみよう。

たとえば1988年に清華大学の校営企業として出発し、今では中国政府との混合所有制になっている「清華紫光集団」の場合。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪、35年の温室効果ガス排出目標設定 05年比62

ワールド

CDC前所長、ケネディ長官がワクチン接種変更の検証

ビジネス

TikTok合意、米共和党議員が「中国の影響継続」

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中