最新記事

ウイグル

漢人の天国、少数民族の地獄。「多様な」街 南新疆カシュガルレポート

2018年11月9日(金)13時05分
林毅

これが悪い事なのかといわれれば一概にそうとは言えないし、また中国固有の問題なのかというと、もちろん違う。しかし法的裏付けもないままに強制的に収容した人の人権を散々踏みにじった後に「施設での学習を通じて自分の過ちに気付いた。政府に感謝している」 などと発言させ、道行く人を顔つきで判断して身体検査を行っておいてそれが問題だという自覚すら持てない無神経さの根本には、自分たちと違うものへの理解の拒絶と傲慢さがある事は否定できまい。

・・・・

hayashi181109-12.jpg

Lin Yi

そして現在は抑圧側にいて安穏としている彼らが理解していないように思えるのは、これが化外の民だけに向く刃ではないということだ。あるべき姿が明確に示されているわけでもない以上、その合格判定は審判=権力によって恣意的に行われることになる。

例えばこの国には9000万人の共産党員がいるが、逆に言えば残りの13億は非党員だ。ある日突然党員でない事が罪であるとされたらどうするのか。あるいは1.8億人が信じる仏教が違法とされたら?世界で20番目に母語とする人が多い広東語が禁止されたら?
...これらはすべて地続きで、今問題にされていないのは単にそれを問題にしない(問題にしても利益がない)と上のほうの誰かが決めているだけのことに過ぎない。すべて「劣った存在」なのだ。

・・・・

人間は誰しも少数派の部分を持っている。違うのは比率と、それが日常生活と折り合いをつけられる部分なのかということだけだ。本来他人に迷惑をかけるような変態的性癖でもない限り、どんな外見でも内面でも、政府に干渉される所以はない。しかしこうした政治制度の元では、理想的な社会の成員たる完璧さを持たないという事は、それだけで罪たりえるのだ。

次の連休はお気軽に現地へ

hayashi181109-13.jpg

恥ずかしながら、砂漠以外にラクダがいるのは知らなかった Lin Yi

ここまでとりあげてきたように、新疆ウイグル自治区の街は何の予備知識がなく訪れてもわかるほどに異常な場所になっている。それでいて治安は犯罪など起こりえないほど完璧にコントロールされているし、軍・警察関係の人物や施設を撮影するなどあからさまに挑発的な行動をとらない限りは政府に関係して危険な目に遭う可能性も低い。

勿論テロが起こらないと断言することはできないが、現地に行きその警備状況を目にすれば、それはマンハッタンを歩くよりよほど確率が低いと感じることだろう。

そして何より、(とってつけたようになってしまうが)郊外の自然は本当に雄大で美しい。またエキゾチックなバザールを見て回るのも楽しい。

hayashi181109-14.jpg

毎週日曜にカシュガル近郊で開かれる家畜市場。市街地から距離はあるが、見学は自由 Lin Yi

・・・・

ウイグル問題は、これからも折に触れて国際的な火種になる事だろう。しかし普通に暮らしていて接触できるウイグルに関する情報は、他の事柄に比べて信頼性にかなりの幅がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中