最新記事

ウイグル

漢人の天国、少数民族の地獄。「多様な」街 南新疆カシュガルレポート

2018年11月9日(金)13時05分
林毅

都市生活者だけでなく、遊牧民たちの生活も破壊されている。写真に写っているのは、近年続く地震をきっかけとして政府が遊牧民のために新たに建設し無料で提供している住居だ。遊牧民たちは元々住んでいた家を取り壊され、見るからに安普請のこの建物に住むことを強制されているという。

hayashi181109-8.jpg

パキスタンとの国境付近に政府が新たに建設した現地生活習慣を無視した住居 Lin Yi

壁が薄く寒暖の差が激しいこの地にまったく適さないという問題に加え、自分たちの家畜に十分な牧草地を確保するため、お互いに距離をとって住んでいた遊牧民たちの伝統的な生活習慣は、こうした住居群への強制集住で破壊されかけている。

hayashi181109-9.jpg

中パ国境付近の少数民族 Lin Yi

それ以外にも、長いあごひげ、新生児のイスラム的な名前、ブルカの着用、ラマダン中の断食、イスラム服を着てバスに乗る、18歳未満がモスクで祈る事などが極端化=過激派化の兆候として禁止されている。また従来行われてきた中国語とウイグル語のバイリンガル教育が形骸化させられ、外国居住者はビザの更新に必要な手続きを妨害され強制的に帰国させられるとされる。

・・・・

そして、急速にこうした抑圧的政策を代表する存在になりつつあるのが「再教育キャンプ」だろう。

当初人権団体などが存在を伝え、脱走者によればイスラム教徒への豚肉食強制や「食事の前に『党に感謝!母国に感謝!習主席に感謝! 』と唱えないと食事をとらせないなど身体的・精神的な虐待が行われているとされるこれらの施設には、情報によって異なるものの複数の施設の合計で100万人が収容されているといわれ、また特に反政府的であったわけでもテロと関連があったわけでもない人が大多数とされる。

従来関心が薄かった国際社会ではあったが、おそらく米中の貿易面での軋轢といった背景もあり、欧州議会 や国連の人種差別撤廃委員会もステイトメントを出すなど、ここ数か月で非難の度合いを強めている。

特に10月4日にペンス米副大統領がハドソン研究所で行ったスピーチは、それまでのパートナーとしての期待を残したものから、多少の猶予は残しながらも相いれない国としての非難に軸足を移したようにも見える。

それに対して中国の外交部報道官は「根拠がない」 と否定するなど応酬が続いているが、その一方、新疆自治政府は10月9日、「新疆维吾尔自治区去极端化条例」の改正を公布し事実上、再教育施設の存在を認めている。

・・・・

中国は01年に「少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない 。」とした内容を含む国際人権規約を批准しているはずだが、現実にこの地で行われている事はそれと大きく矛盾しているようにしか見えない。しょせん外面だけの事かもしれないが、国内での法的な建付けはどうなっているのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ビジネス

米8月製造業生産0.2%上昇、予想上回る 自動車・

ワールド

EU、新たな対ロ制裁提示延期へ トランプ政権要求に

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中